◇SH0064◇ベトナム:新企業法の草案(2) 澤山啓伍(2014/08/22)

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ベトナム:新企業法の草案(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 前回(7月31日付)、ベトナムの国会で現在審議されている新企業法の草案の内容について紹介した。今回はその続きとして、①出資義務の履行期限の厳格化、及び②企業統治の柔軟化という点についてご紹介したい。

1  出資義務の履行期限

 現行の企業法では、有限責任会社の社員は、定款及び投資証明証の記載に従って、3年以内に数度に分けて資本金の払込を行うことが可能である。これに対し、新企業法の草案では、企業登録証の発行から90日以内に全額の払込が必要であるとしている。

 もちろん、会社設立時又はその直後に、登録した資本金全額の払込を要求すること自体は不合理なことではない。むしろ、日本では、会社の設立前に資本金の払込が必要である。しかし、ベトナムに投資を行う外国投資家にとっては、投資証明証において資本金額の記載が必要とされていること、及びその変更(増額)には少なからず時間を要することとの関係上、有限責任会社において資本金を3年以内に振り込めばよいとなっていたことは重要な意味を有していた。すなわち、投資家としては、ベトナム子会社がある程度軌道に乗るまでの間に要する金額を当初見積もって資本金額として投資証明証に記載しつつも、3年間という期限があるため、最初からその全額を出資する必要はなく、段階に応じて必要な金額を順次出資していくという方法をとることで資金の効率的利用ができたのである。

 これに対して、資本金額として登録した金額全額をその時点で払い込む必要があるということであれば、ビジネスの段階に応じて、適宜資本金額を増額しながら必要金額を積み増していくという方法が必要となる。しかし、これまでのように資本金額の増額を行うための行政手続に少なからぬ時間が必要だと、このような方法は現実的ではない。

 新投資法の草案においては、条件付投資分野に該当しない分野で事業を行うのであれば、企業登録証の取得だけで足りるため、増資に関する手続きも現在ほど手間を要しないのではないかと期待される。しかし、実務がどのようになるかは不安が残るところである。

2 企業統治の柔軟化

 新企業法の草案では、株式会社の機関設計について、新しい形態を選択できるようにし、自由度を高めている。すなわち、現行法では、株式会社のうち、個人株主が11名以上である、又は法人株主が総株式の50%超を保有しているものについては、監査委員会の設置が必要とされている。これに対し、新企業法では、この形態に加えて、監査委員会を置かない代わりに取締役会の30%以上を非業務執行取締役とし、取締役会の下に内部監査委員会を置くという形態を採ることを認めている。一説では、これは日本の会社法における委員会設置会社をモデルとして導入されたものとされており、立法の沿革の観点からは非常に興味深い。とはいえ、ベトナムにおいては、外資系企業は株式会社ではなく有限責任会社の形態で子会社を設立していることが多いため、実務への影響はあまり大きくないものと思われる。 (つづく)

 

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