◇SH0103◇中国:中国企業との契約における仲裁合意 若江 悠(2014/10/08)

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中国:中国企業との契約における仲裁合意

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 若 江   悠

 中国企業との間の契約における紛争解決条項としては、基本的には、日本(たとえば東京地裁)における訴訟ではなく、仲裁を選択すべきである。これは日本の判決が中国で執行できないためであり、この点の理解はすでに多くの日本企業の中で共有されている。

 しかし、このポイントに関連し、また仲裁条項の詳細に関しては、いろいろと問題が多く、質問を受けることが多い。そのうちいくつかの重要ポイントについて紹介する:

 

Q1: そもそも中国で執行するのは困難なのだから、法的に執行できるかできないかは関係ないのではないか。

A1: たしかに中国、特に地方では執行が困難なことが多い。しかし、法的には執行できるが実際上困難というのと、法的に執行ができないのは全く異なる。少なくとも、前者であれば、執行が行われる可能性を背景に、相手方による任意の履行に向けた交渉が可能となる余地がある。

 

Q2: JCAA(日本商事仲裁協会)の東京仲裁を提案するのがベストか。中国の仲裁機関はどうか。

A2: 多くの日中間の契約交渉で、日本側からはJCAA、中国側からはCIETAC(中国国際経済貿易仲裁委員会。あるいは、現地仲裁委員会における仲裁や、法院での訴訟が提案されることもある。)が提案されることが多い。そして、結果としては、契約交渉における力関係等により、日方が強いときはJCAA、中方が強いときはCIETAC、また妥協案として、交差条項としたり、香港やシンガポールなどの第三国における仲裁としたりすることが多い。また他の条項との兼ね合いで、交渉の一つの材料として出すという意味あいもある。

 だが結論としてJCAA仲裁が日本企業にとって最も有利な選択肢かどうかは、慎重に検討すべきである。JCAA仲裁には日本における仲裁であることや制度・運営への信頼などの価値がある反面で、CIETACには、渉外ものを含む中国案件の処理案件数が圧倒的に多いという実績面のほか、費用も比較的安価というメリットもある。さらに、手続に時間がかかりがちな外国仲裁の承認執行に比べ、CIETAC仲裁の仲裁判断の方が比較的執行が容易であり、また中国側も任意での支払に応ずることが比較的多いように思われる。仲裁言語として英語の選択も可能である。とはいえ、仲裁日程の管理その他の面で、予想外の事態が生ずることもあるので注意は必要である。

 相手方が上海企業の場合にはSHIAC(上海国際経済貿易仲裁委員会)、広東省企業の場合(華南国際経済貿易仲裁委員会)とすることも考えられる。各仲裁機関の出した仲裁判断については、それぞれ上海、広東省における執行はおそらく問題なく行えると思われるが、他地域における執行は困難が伴う可能性があるなど、難しい面もある。慎重に選択すべきである。

 

Q3: 契約準拠法を中国法とし、東京におけるJCAA仲裁とした場合、仲裁条項はJCAAのモデル条項に従って規定すればよいか。(「この契約から又はこの契約に関連して、当事者の間に生ずることがあるすべての紛争、論争又は意見の相違は、一般社団法人日本商事仲裁協会の商事仲裁規則に従って、(都市名)において仲裁により最終的に解決されるものとする。」)

A3: 上記条項だと、中国仲裁法に基づく仲裁機関の指定が仲裁合意に含まれず、中国法上は仲裁合意としては無効という議論がありうる。中国で争われる場合は、中国の最高人民法院の回答によれば、「仲裁準拠法」に関する明確な合意がないため仲裁地の法すなわち日本法によることになると思われるが、将来異なる判断がされる可能性はある。他方、日本を含む他の法域では、契約準拠法の合意をもって仲裁準拠法の合意と認定される可能性があり、上記の場合だと中国法に従うことなり、仲裁合意として無効とされてしまうリスクがある。

 理論的にはいろいろな場合が想定されうるところだが、中国企業との契約においては、仲裁規則だけでなく仲裁機関を指定する内容の合意とすることが望ましい。

以上

 

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