(第31号)
企業法務よしなしごと
・・・ある企業法務人の蹣跚・・・
平 田 政 和
Ⅲ.Juniorのために・・・広い視野をもとう(その11)
【パイの分け方、オレンジの分け方】
契約交渉をしていると、デッドロックになることも多くある。デッドロックをどのように解決するかは、法務担当者を含めた契約交渉担当者の腕の見せ所である。
私は、「パイの分け方方式」で問題を解決したこともあったし、「オレンジの分け方方式」を採ったこともあった。「パイの分け方方式」や「オレンジの分け方方式」という名前を知ったのはどの書物だったか今では定かではないが、議論がデッドロックになったときには、その解決方式として常に意識していた。もっともこれらの方法では解決できず、最後に“エイヤッ”と、オレンジジュースにして解決したこともあった。
「パイの分け方方式」とは、目の前のパイを二人で均等に分けるにはどうすればよいか、ということである。ナイフで綺麗に切り、秤で量って均等になるようにする、というのも一つの答えだろう。パイならどこを切ってもたいした違いはないであろう。しかし、ショートケーキなら、上に綺麗に飾られているイチゴやメロンまでも均等に切り分ける必要があり、至難の技である。契約交渉の場合も同様に均等に切り分けられない権利や義務が出てくる。
それでは正解は何だろうか。正解は「一人が切り分けてもう一人が選ぶ」ということである。パイの切り方にもいろいろ考えられる。素直に上から切る、横に切る、斜めに切る、いろいろ考えられるが、切り方(権利や義務の分け方)を一方の当事者が“自らが合理的である”と考える方法で決定し、他の当事者が“自らにとって有利である”と考える方を選ぶということで問題の解決を図るというものである。
「オレンジの分け方方式」とはどのような方式か。一つのオレンジを巡って双子の姉妹が争っている。賢明なお母さんはどのように仲裁するだろうか。パイと同じように「一人に分けさせて、もう一人に選ばせる。」というのも良いだろう。
しかし、賢明なお母さんは、姉妹のそれぞれになぜオレンジが欲しいのかを聞く。そして姉は、マーマレードを作るためと言い、妹はサラダを作るためと言ったら、お母さんは姉にはオレンジの皮を、妹にはオレンジの実を与えるようにする。これにより姉妹のいずれもが満足するだろう。
契約交渉においても同様で、一つの権利、権益に交渉当事者双方が同じ目的、関心を抱いているとは限らない。それぞれの当事者が権利、権益のどの部分につき一番強い関心を抱いているか、どのような目的でそう考えているのかを充分に議論し、自らが必要とする部分は自らが確保するが、相手方が強い関心を示している他の部分は相手方に譲る。
相手方の本音を知ることにより採ることができるこの解決方法こそが、双方にとって最も望ましい解決方法だと思っている。
「オレンジジュース方式」というのは、本質的な問題や事柄についてはほとんど全てが解決された契約交渉の最終段階において、当事者双方の意見が対立している残された問題点を全て取り上げ、「この点とこの点についてはこちらが譲歩する。だからその他の点については、当方の要求を受け入れて欲しい。」というように、問題点を全てパッケージにして、“エイヤッ”と解決してしまう方法である。
私も外国企業との契約交渉において何回かこの方法で問題解決をしたことがあった。自らにとってmustと考える論点を重要性を考えて幾つか選び出し、それを確保する代わりに他の論点は相手側に譲るのである。
柔軟な発想や思考によりこちら側にとって有利で、相手方にとっても納得性のある解決案を探り出したいものである。
(以上)