◇SH0423◇ベトナム:賃金の月末締め当月払いの義務化? 田島圭貴(2015/09/14)

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ベトナム:賃金の月末締め当月払いの義務化?

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 田 島 圭 貴

 

 2015年6月23日、ベトナムの労働傷病兵社会福祉省は、法令第05/2015/ND-CP号(「法令05号」)の賃金に関する規定の細則について定める通達第23/2015/TT-BLDTBXH号(「通達23号」)を公布した。通達23号の施行日は2015年8月8日とされているが、法令05号の施行日(2015年3月1日)から遡って適用される(同9条1項、2項)。

 本稿では、通達23号の内容のうち、日系企業にとって特に関心が高いと思われる事項について解説する。

 

1.  賃金の支払時期の明確化

 法令05号によれば、月給制の労働者に対しては1か月に1回又は半月に1回のペースで賃金を支払わなければならないとされているところ(同23条1項)、通達23号では、かかる賃金の支払いは労働者が労働したその月のうちになされなければならないとされた(同5条1項)。労働法上、賃金の支払時期は雇用契約の必要的記載事項とされており(同23条1項(dd))、実務上は、「月末締翌月10日払い」や「20日締め当月末日払い」などと規定している例が多いと思われるが、通達23号の規定を文言のまま解釈する限り、これらの規定は、通達23条に違反していることになる。

 労働法上、労働者は、賃金を直接かつ適時に全額受領する権利を有するとされており(同96条)、労働法に違反した場合の罰則について規定する法令第95/2013/ND-CP号によれば、賃金を適時に支払わなかった雇用者に対しては、従業員の人数に応じて、VND500万ないしVND5,000万の罰金が科されるとされている(同13条3項)。

 したがって、仮に、上記の「適時に支払わなかった場合」が雇用契約の定める賃金の支払時期ではなく、通達23号の定める支払時期を基準に判断される場合は、雇用者が、雇用契約の定める賃金の支払時期に従って賃金を支払っていたとしても、通達23号の定める支払時期(すなわち、月末締め当月払い)を遵守していなかった場合は、上記の罰金の対象となる可能性がある。

 法的には、通達23号の定めに従い賃金を月末締め当月払いで支払う必要があることになるが、他方で、賃金の支給額の計算には一定の時間を要することから、かかる月末締め当月払いを厳密に遵守することは現実的には難しいとの指摘がなされている。今後、かかる指摘を受け、通達23号の修正等がなされる可能性もあることから、引き続き、この問題を巡る実務上の動きについては注視が必要である。

 

2.  時間外・深夜労働に対する支給額の算定方法の明確化

 労働法によれば、時間外労働を平日に行った場合は通常の時給の150%、週休日に行った場合は通常の時給の200%、祝日又は年次有給休暇中に行った場合は通常の時給の300%(祝日又は年次有給休暇に対する給与を除く)を支払うこととされている(同97条1項)。

 また、労働法上、深夜(22時から翌6時まで)に労働した場合は、日中の通常の時給の30%を追加で支払うこととされており、深夜に時間外労働を行った場合は、上記に加えて日中の時給の20%を支払うこととされているが(同97条2項、3項)、その具体的な算定方法は必ずしも明確ではないと指摘されていた。

 かかる状況を受け、通達23号は、時間外・深夜労働に対する支給額の算定方法について以下の通りに明確化した(同6条ないし8条。本稿では、一般的に利用されている時給制の場合の算定方法のみ説明する。)。

 

(a) 時間外労働に対する支給額

 {通常時給×(150%(平日の場合)、200%(週休日の場合)又は300%(祝日・年次有給休暇中の場合))}×時間外労働の時間数

 

(b) 深夜労働に対する支給額

 {通常時給+(通常時給×30%)}×深夜労働の時間数

 =(通常時給×130%)×深夜労働の時間数

 

(c) 深夜時間外労働に対する支給額

  1. • 平日の場合(深夜時間外労働の前の日中に時間外労働を行わないとき)
    {(通常時給×150%)+(通常時給×30%)+(通常時給×100%)×20%}×深夜時間外労働の時間数
    =(通常時給×200%)×深夜時間外労働の時間数
  2. • 平日の場合(深夜時間外労働の前の日中に時間外労働を行ったとき)
    {(通常時給×150%)+(通常時給×30%)+(通常時給×150%)×20%}×深夜時間外労働の時間数
    =(通常時給×210%)×深夜時間外労働の時間数
  3. • 週休日の場合
    {(通常時給×200%)+(通常時給×30%)+(通常時給×200%)×20%}×深夜時間外労働の時間数
    =(通常時給×270%)×深夜時間外労働の時間数
  4. • 祝日又は年次有給休暇中の場合
    {(通常時給×300%)+(通常時給×30%)+(通常時給×300%)×20%}×深夜時間外労働の時間数
    =(通常時給×390%)×深夜時間外労働の時間数

 なお、上記の「通常時給」とは、下記に従い算定される(通達23号6条1項)。

  1.   当該時間外・深夜労働を行った月の実際の賃金支給額(時間外労働又は深夜労働に対する支給額を除く)÷当該月の実際の労働時間数(時間外労働又は深夜労働を行った時間を除く)
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