◇SH0369◇銀行員30年、弁護士20年 第44回「受験勉強には家族の理解が不可欠」 浜中善彦(2015/07/14)

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銀行員30年、弁護士20年

第43回 受験勉強には家族の理解が不可欠

弁護士 浜 中 善 彦

 

 学部学生の場合であっても、法科大学院進学がどのような意味を持っているか、司法試験がどういう試験であり、自分はなぜ法科大学院へ行きたいのか、合格可能性についてはどうか、不合格の場合どうするか等について自分でも十分考えたうえで、両親の納得を得ておくべきである。法科大学院によって違いはあるが、3年間の学費だけでも、最低200~300万円はかかる勘定である。多くの学生は親がかりのようであり、自らのサラリーマンとしての経験からも、親御さんの経済的負担は相当なものであろうと想像できる。
 両親とすれば、子供の希望はできるだけかなえてやりたいと思うのが人情である。その上で、子供はきちんと勉強して、合格できるだろうという漠然とした期待をもっている場合が多いであろう。親の期待に反して、なんとなく希望した就職先に就職できないから、とりあえず法科大学院へ行くなどといった、隠れフリーターのごとき安易な考えで法科大学院を選んではならない。

 

 社会人の場合は、さらにこの点は重要である。とりわけ、連れ合いの理解と承諾は絶対の条件である。法科大学院の夜間部に通う場合でも、経済的負担は相当なものである。昼間部となると、現在の仕事を辞めなければならない。その場合は、現在の安定した生活を捨てることになり、将来の生活の保障がなくなる訳であるから、男性の場合、妻の強い反対を受けることは当然であろう。まして、住宅ローンを抱え、子供がいる場合などはなおさらである。私の教え子のなかにも、大手電機メーカーの元中堅社員、お寺の住職、50歳の元外資系証券会社社員等、社会経験のある受講生がいた。寺の住職の場合、不合格の場合はまた寺に戻ればいい。元外資系証券会社社員の場合は、かなりまとまった財産を相続したので妻も渋々承知したということであった。不合格の場合も、将来の生活の心配がないこれらの場合はむしろ例外的なケースであろう。法科大学院3年、場合によってはさらに5年間、合計8年間を安定した収入なしで生活することがどれほど大変なことか、いうまでもあるまい。

 

 人生の将来設計、仕事との関係をよく考えておくことはいうまでもない。先の米倉先生の指摘にもあるように、学部学生の場合であっても、法科大学院を卒業して司法試験に不合格の場合、企業への就職は決して楽観できない。換言すれば、自分の人生の将来の選択肢がそれだけ狭くなる可能性があるということである。法律を余計に勉強し、学士以上の資格を得たのであるから、より良い就職先が見つかるだろうなどと考えてはいけない。法科大学院へ行くか行かないかは、後の人生を決める重大な決断である。その意味では、自分で本当にしたい仕事が弁護士業であるのかどうか、単なるあこがれに過ぎないのではないか等、もう一度よく自問してみる必要がある。大学の学部を法学部にするか経済学部にするかというのとは全く意味が違うということを認識しなくてはいけない。仕事をしながら法科大学院へ通学しようと考えている人たちの場合も、精神的、肉体的にはもちろん、経済的にもかなり厳しいことはいうまでもない。

 

 合格しても、必ずしも思い通りに就職できない弁護士が増えていることから、法科大学院志望者が激減しているが、むしろ、安易に法科大学院を志望していた人たちが慎重になったことは、むしろ歓迎すべきことかもしれない。気概をもって難関に挑戦する人たちに、合格者削減によって門戸を狭めるようなことはすべきではないと考える。

以上

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