シンガポール:債務再編国際センター樹立へ(下)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 長谷川 良 和
前回、「シンガポール:債務再編国際センター樹立へ(上)」の中で、本年7月20日に法務省が受け入れた倒産法検討委員会の提言(「委員会提言」)のうち、再編用の法的枠組強化の要旨を紹介した。本稿は、その続編として、委員会提言で示された3分野のうち、再編促進に向けた環境整備、及び認知度向上に向けた取組について紹介する。
2. 再編促進に向けた環境整備
次に、再編促進に向けた環境整備として、委員会提言は、救済ファイナンスの利用可能性の向上、及び倒産専門家の充実化を提唱している。
救済ファイナンスの利用可能性の向上に関しては、シンガポールにおいて最優先となる担保権(lien)を認めること、不良債権に資金供給する事業者をシンガポールへ誘致すること、及びシンガポール政府が救済ファイナンス活動に関して各種インセンティブを提供することが提唱されている。最優先担保権の付与については、実体財産権に影響を及ぼすことから裁判所の許可を条件とし、また既存担保権者に不当な不利益が生じないよう十分な措置を講じることが想定されている。
また、倒産専門家の充実化に関しては、複雑な国際債務再編に対処可能なシンガポール倒産専門家の更なる充実とそのための大学教育を通じた人材養成が提唱されている。
3. 認知度向上に向けた取組
上記に加え、委員会提言は、シンガポールで国際債務再編を実施することの利点を国際倒産関連組織、各種会議及びセミナー等において積極的に発信努力すべきことを提唱している。
シンガポールは、国際金融拠点、グローバル・地域統括拠点、国際紛争解決拠点、知的財産ハブ等となることを目指して資本・高度人材・情報集約型の諸政策を推進してきており、債務再編国際センター構想もシンガポールの戦略的試みの一つとして位置づけられる。今後、委員会提言を踏まえて具体的な施策が講じられる見込みであり、その過程で様々な課題が生じることも想像に難くないが、債務再編国際センター樹立に向けたシンガポールの取組を引き続き注視し、適時にフォローアップしていきたい。