インドネシア:法人の刑事責任に関する最高裁規則
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 坂 下 大
1. 本規則の対象
本規則は、実体法上法人に対する処罰規定(日本法における両罰規定に相当するもの等)が設けられている「会社犯罪」に関し、かかる法人に対する刑事責任(一定の場合における取締役等の刑事責任を含む。)及びこれに係る手続の詳細を定めたものである。(本規則において「会社犯罪」とは、関連法令に基づき会社が責任を負うこととなる犯罪行為、と定義されている。かかる「会社犯罪」は、雇用関係その他の合意による法人との関係に基づいて、ある個人が当該法人のためにした行為によってなされうる。)
インドネシアにおいては、例えば汚職撲滅法やマネーロンダリング防止法等、法人処罰の規定を有する法令は一応存在するものの、これまでの実務をみると、そのような規定に基づいて実際に法人が起訴・処罰されることは稀であり、行為者たる役員・従業員個人の犯罪として起訴・処罰がなされる場合がほとんどであるのが実情である。本規則の施行によってかかる実務にどの程度の変化が生じるかは現時点では必ずしも明らかではないが、その責任の内容や手続がある程度詳細に定められたことにより、法人自身が起訴・処罰されるケースが増加することとなる可能性も考えられるため、より現地法人のマネジメント、コンプライアンス体制に関する注意が必要となろう。
2. 本規則の概要
本規則上、「会社犯罪」について法人が責任を負うか否かは、裁判官が以下の要素を考慮して判断するとされている。
- • 当該法人が当該犯罪行為によって直接利益を受けているか、若しくは当該犯罪行為は当該法人の利益を促進するために行われたものであるか
- • 当該法人が当該犯罪行為が行われることを了承していたか、又は
- • 当該法人において、当該犯罪行為の抑止や当該犯罪行為の効果の低減のための措置を講じなかった等の事情があるか
また、「会社犯罪」に係る刑事手続においては、1人又は複数の取締役(本規則上は、法令及び定款等に基づき法人を運営し、代表する権限を有する機関の構成員等と規定されているが、本稿では便宜上「取締役」という。)が法人を代表することとされている。なお、法人と取締役が同一の犯罪についてともに刑事手続の対象となる場合には、当該取締役が、当該刑事手続において会社を代表しなければならない(但し、他の取締役と共同して会社を代表することは妨げられない。)。
本規則の定める、法人(及び一定の場合における取締役等)に科されうる刑罰は以下のとおりである。これらの刑罰は裁判官の判断により科されることになる。
- • 主たる刑罰として、当該「会社犯罪」の根拠となる法令が定める罰金刑
- • 付加的な刑罰として、関連法令に基づいた証拠の没収、被害弁償等
- • 裁判所の命令によるその他の懲罰的処分
また、本規則は、一定の場合には、親会社、子会社、兄弟会社にも責任が及びうる旨を規定し、また合併、会社分割等の組織再編や会社清算が行われた場合における責任の帰趨や手続を代表すべき者についても定めており、該当する場合には留意が必要である。