◇SH1173◇インドネシア:「生産に関連する」ディストリビューターに関する議論(上) 坂下 大(2017/05/19)

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インドネシア:「生産に関連する」ディストリビューターに関する議論(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 坂 下   大

 

 2016年5月18日付で現行のネガティブリスト(大統領令2016年44号。以下「ネガティブリスト」という。)が施行されてからちょうど1年が経過する。この1年間、明文上必ずしも明らかではない点や、他の法令との整合関係等、ネガティブリストに関するいくつかの論点が実務より提起され、これらについて投資調整庁(BKPM)による説明がなされたり、また当該不整合を解消するための関連法令の改正が行われたりしたところである。そして、現在も引き続き実務の高い関心を集めているのが、ネガティブリストにおけるディストリビューターに関する諸論点である。これまでBKPMは日系企業向けの説明会を複数回開催し、その中でディストリビューターに関する諸論点についても都度説明を行っているが、去る2017年3月29日、改めてBKPMによる日系企業向けの説明会が開催され、かかる論点について更なるアップデートがなされたため、本連載において2回にわたってご紹介する。

 

1. ディストリビューターに係る外資規制の概要

 2014年施行の旧ネガティブリスト(大統領令2014年39号)では、ディストリビューター(卸売業)に係る外資出資比率の上限は一律に33%とされていた。ネガティブリストでは当該上限が緩和され、「生産に関連する・しない」という概念が新たに導入された上、「生産に関連しない」ディストリビューターについて外資出資比率の上限を67%とする旨の規定が設けられた。裏を返すと、「生産に関連する」ディストリビューターはネガティブリストの制限を受けず、外資100%可となったところである。

 

2. 「生産に関連する」の意義

 そうすると、ネガティブリストにおける外資出資比率の上限を分ける「生産に関連する」ディストリビューターとは何を意味するのかが問題となるが、ネガティブリスト上この点に関する具体的な判断基準は設けられていない。もっとも、BKPMによると、「生産に関連する」とは、インドネシアにおいて製造業を営む会社と「一定の資本関係」があることをいい、例えば、当該製造業を営む会社の株主が、インドネシアで新たに設立するディストリビューターの株主となる場合や、当該株主の子会社を通じて間接的に当該ディストリビューターに出資する場合等がこれにあたるというのが、従前からの説明であった。

 そして、具体的にどの程度の出資割合であれば上記「一定の資本関係」が認められるのかという点については、BKPMのこれまでの説明でも必ずしも明らかにはされていなかったが、先の説明会では、「過半数の出資を期待している」旨の言及がBKPMの担当官よりなされた。この過半数の出資は、すでにインドネシアに存在する製造会社との関係、及び新たに設立するディストリビューターとの関係の双方において、直接又は間接に満たすべきことが期待されているという趣旨の説明であったと解される。そもそも明文上の判断基準が存在しない論点であることや、BKPMの担当官があえて「期待している」という含みのある説明をしていることに鑑みると、引き続き具体的な事案ごとの確認が必要ではあるが、今後は、例えばA社及びB社(いずれも外資)が、51:49や67:33(いずれもA社:B社)の合弁によりインドネシアに製造会社を有する場合のように、マイノリティ株主(B社)がそれなりの割合の出資を行っている場合であっても、新たに外資100%可のディストリビューターを設立できるのはA社の方に限られ(つまり、外資100%可のディストリビューターが「関連」すべき対象はA社に限られ)、B社はA社の関与なくしてこれができないこととなる可能性がある点に留意が必要である。

 

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