法人の刑事責任を認めるアルゼンチンの新しい腐敗防止法
西村あさひ法律事務所
弁護士 古 梶 順 也
1 はじめに
2017年12月1日、アルゼンチンにおいて新しい腐敗防止法(法律第27,401号。以下「本法」という。)が官報により公布された。
アルゼンチンにおいては、これまで贈賄や一定の公務員が関与する犯罪について刑事責任を負うのは行為者(自然人)のみであったが、本法は、これらの犯罪に関与した法人の刑事責任を新たに認めるものとなっている。本法は、マクリ政権が進める腐敗防止政策の一環として制定されたもので、アルゼンチンが署名している「国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約(OECD外国公務員贈賄防止条約)」に定められた誓約事項の一つを達成するものとなっている。
本法は、日本企業のアルゼンチンにおけるコンプライアンス体制を見直す必要性を生じさせる内容を含むもので、アルゼンチンに進出する又は進出を考える日本企業にとって重要であると考えられることから、本稿においてその概要を紹介する。
なお、本法は、官報により公布された日から起算して90日後に発効するとされているため、2018年3月2日に発効すると考えられる。
2 本法の概要[1]
本法は、アメリカのForeign Corrupt Practices Act(いわゆるFCPA)や英国のBribery Actといった他国の重要な腐敗防止法をモデルとしており、概要は以下のとおりである。
⑴ 企業の刑事責任
本法の下では、企業は、贈賄や一定の公務員が関与する犯罪行為[2]の発生に直接若しくは間接的に関与した場合、又は、当該犯罪行為が当該企業の名義で若しくは当該企業の利益のために行われた場合、当該犯罪行為について責任を負う。当該犯罪行為を行った個人が当該企業の役職員である場合のみならず、第三者が当該企業の利益のために当該犯罪行為を行った場合も、企業は責任を負うこととされている。但し、個人が自らの利益のためだけに犯罪行為を行い、企業が当該犯罪行為に関して一切の利益を享受しなかった場合には当該企業は責任を負わない。
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