SH4421 新たな裁定制度の創設等を内容とする著作権法改正案(国会審議中) 後藤未来/鷲見彩奈(2023/04/20)

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新たな裁定制度の創設等を内容とする著作権法改正案(国会審議中)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 後 藤 未 来

弁護士 鷲 見 彩 奈

 

1 はじめに

 筆者らの別稿[1]でも紹介したとおり、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(以下「本委員会」という。)は著作権法改正の検討を進めてきた。今般、2023年3月、著作権法の一部を改正する法律案(以下「本改正案」という。)が、開会中の第211回国会(常会)に提出された[2]。本改正案は、主に以下の事項を内容とするものであり、本項ではその内容を概観する。

①   著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等

②   立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置

③   海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し

 なお、本改正案のうち、上記①については、公布の日から起算して3年を超えない範囲において政令で定める日が施行日として想定されている。他方、上記②および③については、2024年1月1日からの施行が想定されている(本改正案附則1条)。

 

2 著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等について

⑴ 利用の可否にかかる著作権者等の意思が確認できない著作物等の利用円滑化

ア 2つの裁定制度

 現行法上、著作権が有効に存続する著作物を適法に利用するためには、原則としてその権利者の許諾を得る必要がある。しかし、権利化に登録を要する特許権等と異なり、著作権は登録を要しないため、権利者の探索が容易でないケースも少なくない。また、権利者を特定できて連絡した場合であっても、応答がなく利用の諾否が分からない等、許諾を得ることが実際上困難なケースもあり得る。

 現行法の下では、著作権者と連絡することができない場合、文化庁長官の裁定を受け、かつ使用料相当額の補償金を供託することで、裁定にかかる利用方法により利用することができる(現行著作権法67条1項)。本改正案では、現行の裁定制度に改正を加えつつ(以下、本改正案により改正された裁定制度を「第一裁定制度」という。)、新たに「未管理公表著作物等」を利用する場合の裁定制度を設けることとしている(以下、本改正案により新設された裁定制度を「第二裁定制度」という。)。

 両裁定制度のポイントを纏めると下表のようになる。

 

第一裁定制度

第二裁定制度

対象

公表著作物等

公表著作物等であって、①著作権が未管理かつ②著作権者の意思確認に必要な情報が未公表(未管理公表著作物等)

裁定の要件

  1. ① 権利者情報(著作権者の氏名または名称および住所などの著作権者と連絡するために必要な情報)に基づき著作権者と連絡するための措置をとったにもかかわらず、著作権者と連絡することができなかったこと
  2. ② 著作者が当該著作物の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないこと
  1. ① 著作権者の意思確認の措置(文化庁長官が定める措置)をとったにもかかわらずその意思確認ができなかったこと
  2. ② 同左

利用期間の法定上限

なし

3年

著作権者の請求による裁定の取消し

なし

あり

申請中の利用制度

あり

なし

 以下、上記のポイントを中心に、両裁定制度の概要を説明する。

イ 第一裁定制度

 第一裁定制度の対象となるのは、「公表された著作物または相当期間にわたり公衆に提供され、もしくは提示されている事実が明らかである著作物」(本改正案の定義に倣い、以下「公表著作物等」という。)(本改正案67条1項)である。

 裁定を受けるためには、①権利者情報(著作権者の氏名または名称および住所または居所などの著作権者と連絡するために必要な情報)を取得し、その情報に基づき著作権者と連絡するための措置をとったにもかかわらず、著作権者と連絡することができなかったこと、および②著作者が当該公表著作物等の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないことが必要である(本改正案67条1項1号2号)。これらの要件にいずれも該当する場合には、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、裁定により定められた利用方法にしたがって、当該著作物を利用することができる(本改正案67条1項柱書)。第二裁定制度と異なり、利用期間に法定の上限はない。さらに、第一裁定制度においては、担保金を供託することで、裁定申請の間、申請にかかる利用方法と同一の方法により、当該著作物を利用することができる(本改正案67条の2)。

 裁定がなされた場合、その内容はインターネット等において公表される(本改正案67条8項)。また、裁定をしない処分がなされる場合には、裁定を求める者に対し事前に弁明等の機会が付与される(本改正案67条6項)。また、裁定がなされた場合、補償金の額に不服がある当事者は、6か月以内に訴えを提起してその額の増減を求めることができる(本改正案72条、67条1項)。

ウ 第二裁定制度

 新設された第二裁定制度の対象となるのは、「未管理公表著作物等」である。未管理公表著作物等とは、公表著作物等であって、①著作権等管理事業者(現行著作権法2条1項23号)による著作権の管理が行われておらず、かつ②当該公表著作物等の利用の可否にかかる著作権者の意思を円滑に確認するために必要な情報の公表がされていないものをいう(本改正案67条の3第2項)。

 裁定を受けるためには、①著作権者の意思確認の措置(文化庁長官が定める措置)をとったにもかかわらずその意思確認ができなかったこと、および②著作者が当該未管理公表著作物等の利用を廃絶しようとしていることが明らかでないことが必要である(本改正案67条の3第1項1号2号)。これらの要件にいずれも該当する場合には、通常の使用料の額に相当するものとして文化庁長官が定める額の補償金を著作権者のために供託して、裁定により定められた利用方法にしたがって、当該著作物を利用することができる(本改正案67条の3第1項柱書)。

 上記のとおり、第一裁定制度では、著作権者が特定され、著作権者の氏名や住所等が判明していることが前提となるため、著作権者が不明の場合や居所が知れない場合等には、この第二裁定制度が選択されることになると考えられる。利用の期間は、最長3年である(本改正案67条の3第5項)。

 裁定にかかる著作物の著作権者が、裁定を受けた者からの協議の求めを受け付けるために必要な措置を講じた場合には、当該著作権者の請求により、裁定が取消しされることがある(本改正案67条の3第7項)。裁定の取消しがなされると、著作権者は、供託された補償金のうち、当該裁定のあった日からその取消しの処分のあった日の前日までの期間相当分(以下、本改正案の定義に倣い、「取消時補償金相当額」という。)について弁済を受けることができ(本改正案67条の3第9項)、供託をした者は、当該補償金のうち、取消時補償金相当額を超える額を取り戻すことができる(本改正案67条の3第10項)。

 裁定の内容がインターネット等において公表されること(本改正案67条の3第6項、67条8項)、裁定をしない処分がなされる場合に、事前に弁明等の機会が付与されること(本改正案67条の3第6項、67条6項)、補償金の額に不服がある当事者が6か月以内に訴えを提起してその額の増減を求めることができること(本改正案72条、67条の3第1項)は、第一裁定制度と同様である。

 本委員会は、検討過程において、第二裁定制度を時限的な利用の制度と位置付けていたが[3]、本改正案は、そのような位置づけを反映したものといえよう。

⑵ 窓口組織(民間機関)による新たな制度等の事務の実施による手続の簡素化

 第二裁定制度においては、文化庁長官の登録を受けた民間の窓口組織が、裁定の申請受付、裁定要件の確認、および使用料相当額の算出の事務を行うことができる(本改正案104条の33第1項)。本委員会の検討過程を踏まえると、文化庁長官の事務の一部を民間組織に担わせることで、手続の簡素化や迅速化を実現する趣旨と考えられる[4]

 また、第一裁定制度および第二裁定制度の双方において、文化庁長官の指定を受けた一般社団法人または一般財団法人(以下、本改正案に倣い、「指定補償金管理機関」という。)が、補償金や担保金の受領や管理等の業務を行うことができる(本改正案104条の18、104条の20)。したがって、裁定制度を申請する者は、供託手続に代えて、指定補償金管理機関への支払いを行うことができる(本改正案104条の21第2項)。

 

3 その他の改正について

⑴ 立法・行政における著作物等の公衆送信等を可能とする措置について

 行政や立法、行政手続および行政審判手続において、従前認められていた複製に加え、公衆送信等が可能となった。

 すなわち、現行の著作権法上、行政や立法の目的のために内部資料として必要と認められる場合には、その必要と認められる限度において、かつ権利者の利益を不当に害しない範囲で複製することが認められている(現行著作権法42条1項)。本改正案では、複製に加え、必要と認められる限度において、内部資料を利用する者との間で公衆送信を行い、または受信装置を用いて公に伝達することができる(本改正案42条)。

 また、現行の著作権法上、特許に関する審査等の行政手続のために必要と認められる場合には、その必要と認められる限度で、かつ権利者の利益を不当に害しない範囲で複製することが認められている(現行著作権法42条2項)。本改正案では、複製に加え、特許に関する審査等の行政手続が電磁的記録を用いて行い、または映像もしくは音声の送受信を伴って手続が行われる場合には、必要と認められる限度において公衆送信を行い、または受信装置を用いて公に伝達することができる(本改正案42条の2第2項)。

 さらに、現行の著作権法上、行政審判手続のために必要と認められる場合、その必要と限度で、かつ権利者の利益を不当に害しない範囲で複製することが認められている(現行著作権法42条1項、40条1項)。本改正案では、複製に加え、特許法その他政令で定める法律の規定による行政審判手続であって、電磁的記録を用いて行い、または映像もしくは音声の送受信を伴って行われるものについては、必要と認められる限度において公衆送信を行い、または受信装置を用いて公に伝達することができる(同条2項)。

⑵ 海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直しについて

 著作権侵害の場合の損害賠償額の算定方法については、現行著作権法114条1項から3項に定められており、その基本的な構造は、特許法102条1項から3項に類似したものとなっている。他方、特許法102条は2019年に改正され、商標法・意匠法・実用新案法も同様の改正が行われていることから、著作権法についても同様の改正案が提出された。

※出典:文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書(素案)【概要】[5]14頁

 まず、現行法は、侵害品の「譲渡等数量」に、権利者が、当該侵害行為がなければ販売することができた物の「単位数量当たりの利益の額」を乗じて得た額をもって、権利者が受けた損害の額とすることができる旨規定をしている(現行著作権法114条1項本文)。ただし、権利者側の製造・販売能力や、当該譲渡等数量を著作権者が販売することが出来ない事情に応じた数量が、損害の額から控除される(同条項ただし書)。この規定について、本改正案は、改正後の特許法102条1項に倣い、侵害者が得た利益のうち、著作権者等の販売等の能力を超えるとして賠償が否定される部分(本改正案114条1項1号)について、侵害者にライセンスしたとみなして、ライセンス料相当額も権利者が受けた損害の額として認められる(同条項2号)こととなった。

 また、現行法は、著作権法は、ライセンス料相当額を損害賠償額とする旨を規定している(現行著作権法114条3項)。この規定について、本改正案では、改正後の特許法102条3項に倣い、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を裁判所が考慮できる旨が規定される(本改正案114条5項)。なお、上記本改正案114条1項2号に基づくライセンス料相当額についても、裁判所は、著作権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる(本改正案114条5項)。

 

4 おわりに

 昨今、Web3.0時代を見据え、メタバースといった新たなデジタル空間におけるコンテンツの利用可能性が増大している。本改正案により、裁定制度が活発に利用され、著作物の円滑な利用が進むこととなるのか、注目される。

以 上


[1] SH4260 文化審議会著作権分科会法制度小委員会、著作権法改正案に関する報告書(素案)を公表 後藤未来/鷲見彩奈(2022/12/29)

[2] https://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/detail/mext_00044.html

[3] 第22期文化審議会著作権分科会法制度小委員会報告書(素案)(以下、「報告書(素案)」という。)5頁 https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r04_07/pdf/93799901_02.pdf

[4] 前掲注[3]に同じ。報告書(素案)5頁では、「窓口組織を活用することにより手続の迅速化・簡素化を図ることができるようにする」とされている。

[5]https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r04_07/pdf/93799901_01.pdf

 

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(ごとう・みき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー、弁護士・ニューヨーク州弁護士。理学・工学のバックグラウンドを有し、知的財産や各種テクノロジー(IT、データ、エレクトロニクス、ヘルスケア等)、ゲーム等のエンタテインメントに関わる案件を幅広く取り扱っている。ALB Asia Super 50 TMT Lawyers(2021、2022)、Chambers Global(IP分野)ほか選出多数。AIPPIトレードシークレット常設委員会副議長、日本ライセンス協会理事。

 

(すみ・あやな)

 

 

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2014年東京大学法科大学院卒業。2015年弁護士登録(第二東京弁護士会)。主な取扱い分野は、知的財産法、個人情報保護法。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

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* 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用

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