SH4569 国境をまたいだ事案(越境的処理)におけるGDPR執行手続の追加規則が提案される 中崎尚(2023/07/27)

取引法務個人情報保護法

国境をまたいだ事案(越境的処理)におけるGDPR執行手続の追加規則が提案される

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 中 崎   尚

 

1 ワンストップショップの仕組みと問題点

 EU一般データ保護規則(GDPR)の下では、規制と執行のいわゆる「ワンストップショップ」メカニズムが提供されており、複数のEU加盟国にまたがって事業を展開する事業者は、関係する加盟国のデータ保護当局すべてとコミュニケーションする必要はなく、そのうち1つのデータ保護当局を窓口として対応すればよいと定められている。

 この窓口となるデータ保護当局を主任監督当局(Lead Supervisory Authority)という。主任監督当局は、越境的処理(cross-border processing)に関して、主たる責任を負うものである(第56条1項)。

 「越境的処理」には二つのパターンがあり、GDPRでは、①複数の加盟国にまたがって存在する管理者・処理者の事業所の活動に関連して、個人データの処理が行われる場合、および、②単一事業者の個人データ処理であるが、複数の加盟国のデータ主体に実質的な影響を及ぼすか、または影響を及ぼし得るような活動に関連して行われる個人データの処理のいずれかに該当する場合、「越境的処理」に該当する(第4条23号)。ここでいう「実質的な影響」の判断は、個別事案ごとに行われるが、処理の背景、個人データの種類、処理の目的およびそのほかのファクターが考慮されることになる。

 また、主任監督当局は、管理者・処理者の唯一の担当窓口(interlocutor)でなければならない、と定められている(第56条6項)。

 例外として、対象事項が単一加盟国内の拠点のみに関するものである場合または当該加盟国のデータ主体のみに実質的に影響するにとどまる場合は、主任監督当局に限らず、当該加盟国の監督当局は、不服申立てまたはGDPRの違反の可能性の処理についての管轄権を有する(第56条2項)。

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

 

<事務所概要>
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