米FTC、遺伝・健康情報に関するデータをめぐる
プライバシー保護違反につきDNA検査企業との間で
20年間にわたる管理改善を含む同意命令の合意
アンダーソン・毛利・友常法律事務所*
弁護士・カリフォルニア州弁護士 井 上 乾 介
中国弁護士・ニューサウスウェールズ州弁護士 石 瀛
1 はじめに
本稿では、米国の連邦取引委員会(Federal Trade Commission 以下「FTC」という。)が、DNAテストキットを取り扱う企業である「1Health.io」(2020年10月以前の名称は「Vitagene」であるため、以下「Vitagene」という。)に対し、連邦取引委員会法(以下「FTC法」という。)違反として、制裁金75,000米ドルや20年間にわたる継続的管理改善措置を含むさまざまな制裁を課した事例[1]を概観し、日本企業への示唆を検討する。
2 米国の連邦レベルの個人保護法制と執行手続
米国の連邦レベルの個人情報保護は、個別法とFTC法で規制しており、執行機関としてのFTCがFTC法5条に基づく執行権限を用いて民間企業の監督を行っている。具体的には、FTC法5条(a)では「不公正若しくは欺瞞的な行為又は慣行」(unfair or deceptive acts or practices)を禁止しており、FTCはこれらの禁止行為を民間企業が行わないように監督する権限が与えられている。
FTC は違反が生じていると「信じるにたる理由」(reason to believe)がある場合には、その主張を訴状(Complaint)として発行する。訴状の対象となった者が FTC の主張を受け入れる場合には、命令案の内容等に関する「同意命令の合意」(Agreement Containing Consent Order)を結ぶことができる。この場合には、訴状の対象となった者は、司法上の審査を受ける権利をすべて放棄し、FTCの命令に従うことになる。FTC は、命令の原案等の資料を30日間(または委員会が指定する期間)のパブリックコメントに付し、変更がない場合は原案に沿った命令を行う。一般的に、このプロセスを経たFTCの命令は、金銭的な制裁が軽減される反面、長期的な企業管理の改善に関する命令が多く含まれる傾向にある。
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(いのうえ・けんすけ)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所 スペシャル・カウンセル。2004年一橋大学法学部卒業。2007年慶応義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(東京弁護士会)。2016年カリフォルニア大学バークレー校・ロースクール(LLM)修了。2017年カリフォルニア州弁護士登録。著作権法をはじめとする知的財産法、個人情報保護法をはじめとする各国データ保護法を専門とする。
(せき・いん)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年オーストラリアニューサウスウェールズ大学法学部卒業。2019年ニューサウスウェールズ州事務弁護士登録。2021年中国弁護士登録。
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/
<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。
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