SH4749 中国北京インターネット法院、AI生成物の著作権を認める 中崎尚/石瀛(2023/12/22)

取引法務特許・商標・意匠・著作権

中国北京インターネット法院、AI生成物の著作権を認める

 アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 中 崎   尚

中国弁護士・ニューサウスウェールズ州弁護士 石     瀛

 

1 はじめに

  文章、画像や映像など、著作権による保護の対象になる作品に関して、ChatGPTなどのAIにより生成されるものが人類の創作物と同等のレベルで保護を受けることを是とするかにつき、世界各国で議論が巻き起こっている。AI生成物の著作権による保護への反対理由としては、①AI自体は美に共感する感受性も創作の意思もなく、著作物として保護されるための要件を充足しないこと、②人間による知的労働および身体労働が大幅に省略され、生成の過程で人間の主導性あるいは創作的寄与が少ないにもかかわらず、著作物として保護すれば、人間の能力を超えた膨大な数のAI作品によって淘汰されかねないこと、③自ら筆を執るクリエイターの「画風」「作風」などを学習したAIによって、当該クリエイター風のAI作品が氾濫し、クリエイター本人が損失を被っていることなどが挙げられる。

 2023年8月18日に下された、米国のコロンビア特別区連邦地方裁判所の略式意見[1]では、「機械によって自律的に作成された」画像の著作物性が否定されたものの、人間がAIを利用して作品が生成された場合に「著者」と認められるためにどのような貢献が必要か、また新時代の創作活動を奨励するために著作権制度をどう運用するべきかなど、AI作品の著作物性を承認する可能性も示唆されている。そして2023年11月27日、中国の北京インターネット法院は生成AI(Stable Diffusion)による生成画像の著作権を認めた判決書[2](「本判決」)を公表した。

 本稿では、本判決を概観しつつ、生成AIと著作権の関係性について紹介する。

北京インターネット法院

2 本判決の事実背景

  2023年2月26日、本判決における原告は、Stable Diffusionを使い製作した画像6点(本判決の紛争対象の画像(「本件画像」)も含む)を「春風は優しさを運ぶ」と題し、自らのRED BOOK(中国のSNSのサービス名称)上で発表した。Stable Diffusionとは画像生成AIの一種であり、ユーザーが希望したイラストの内容を伝えるための文章(「プロンプト」)を入力することにより、AIがモデルデータの学習経験をもとに自動的に画像を出力する。

 本件画像の作成過程に関し、原告は下記の行為を行ったと主張した:

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

 

(せき・いん)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所アソシエイト。2019年オーストラリアニューサウスウェールズ大学法学部卒業。2019年ニューサウスウェールズ州事務弁護士登録。2021年中国弁護士登録。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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