SH4815 経産省、「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ(第12回)」を開催、改正再エネ特措法の施行および説明会等実施ガイドラインの策定に向けて詳細議論 宇田川法也/鈴木圭佑(2024/02/16)

サステナビリティ

経産省、「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ(第12回)」を開催、改正再エネ特措法の施行および
説明会等実施ガイドラインの策定に向けて詳細議論

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 宇田川 法 也

弁護士 鈴 木 圭 佑

 

1 はじめに

 2012年のFIT制度導入以来、太陽光発電を中心として再生可能エネルギーの導入量が増加してきた一方で、安全面、防災面、景観・環境への影響や将来の発電設備の廃棄等に対する地域の懸念が高まっている。これを踏まえ、経産省は「再生可能エネルギー長期電源化・地域共生ワーキンググループ」(以下、「地域共生WG」という。)を設置し、2023年5月以降、再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法(平成23年法律108号。以下、「再エネ特措法」または単に「法」という。)および同法施行規則(平成24年経産省令46号。以下、「施行規則」という。)の改正に関する詳細設計を議論してきた。

 今般、改正再エネ特措法が本年4月1日に施行される予定であるところ、地域共生WGの第12回会合が開催され、改正再エネ特措法の施行および後述する「説明会及び事前周知措置実施ガイドライン」(以下、「説明会等実施ガイドライン」または単に「ガイドライン」という。)の策定に向けて、最終的な詳細設計が議論されたため、そのうちの重要と思われるポイントを紹介する。

 

2 改正再エネ特措法の概要

 改正再エネ特措法の本年4月1日施行に向けて、改正施行規則案概要と説明会等実施ガイドライン(案)が公表されている。これらの内容は、基本的に地域共生WGが昨年11月に公表した「第2次取りまとめ」[1]の内容を反映したものであり、その概要は以下のとおりである。なお、改正施行規則および説明会等実施ガイドラインについては、昨年末から本年1月にかけてパブリックコメントを実施し、改正再エネ特措法施行までに公布予定であるため、今後変更の可能性がある点は留意されたい[2]

 本稿では、この中で特に実務上直接的に大きな影響を及ぼすものとして、再エネ発電事業に関与する事業者からの関心も高いと思われる「Ⅱ 説明会等のFIT/FIP認定要件化」に関する最新の議論にフォーカスする。

出典:第12回地域共生WG 資料1「改正再エネ特措法の施行に向けて」3、4頁

 

3 計画変更に伴う変更認定申請時の説明会等の実施事由

 改正再エネ特措法においては、すべての高圧・特別高圧にかかる再エネ発電所を中心に、再エネ発電事業計画の認定を申請するに当たって周辺住民に対する説明会または事前周知措置(以下、「説明会等」という。)を実施することを要求し、説明会等の実施を認定要件の一つに追加している(法9条2項7号、4項6号。いわゆる説明会等のFIT/FIP認定要件化)。この説明会等の実施は、新規の認定申請のみでなく、一定の変更認定申請を行う場合においても要求され、これを実施しなければ変更認定が取得できない(法10条1項、4項)。

 説明会等実施ガイドラインの第5章「計画変更に伴う変更認定申請時の説明会等」では、具体的にどのような変更認定申請を行う場合に説明会等の実施が要求されるのか等を明らかにしており、具体的には以下の計画変更に伴う変更認定申請が説明会等の実施事由とされている。

  1. ① 事業譲渡、合併または会社分割を原因とする認定事業者の変更
  2. ② 認定事業者の密接関係者の変更
  3. ③ 再エネ発電設備の設置場所の変更
  4. ④ 再エネ発電設備の認定出力を、新規認定の日または直近の説明会等の日のいずれか遅い日から20%以上または50kW以上増加させる変更
  5. ⑤ (太陽光発電設備の場合)太陽光パネルの合計出力を、新規認定の日または直近の説明会等の日のいずれか遅い日から20%以上または50kW以上増加させる変更
  6. ⑥ 説明会等の実施が必要な要件に新たに該当することとなる再エネ発電設備の変更

 

 上記のうち、特に①の事業譲渡、合併または会社分割および②の密接関係者の変更(詳細は後述)は、いわゆる再エネ発電事業者が交代する場面であり、新規で事業を開始する場合と同様に地域とのコミュニケーション不足によりトラブルが発生する事案も生じやすいとの懸念から改めて説明会等の実施が求められたものであるが、再エネ発電プロジェクトの買収取引において頻繁に用いられるスキームでもあるため、実務へのインパクトは非常に大きく、現に当職らにもこの点について具体的な相談が複数寄せられている。

 

4 再エネ発電事業者の「密接関係者」の範囲

 昨年11月までの地域共生WGにおける議論および上記の「第2次取りまとめ」では、「実質的支配者の変更」の場合にも説明会等の実施を要求すべきとの議論がなされていたが、具体的にどのような者が「実質的支配者」に該当するかは明らかにされていなかった。改正施行規則のパブリックコメント案(2023年11月28日公表)でも「認定事業者の密接関係者の変更」としか規定されておらず(施行規則8条の2、9条)、説明会等実施ガイドラインのパブリックコメント案(2023年12月22日公表)において、ようやく「密接関係者」の定義が以下のとおり示された。

 

「密接関係者」とは、次の者をいう。

(ⅰ)認定事業者の社員(認定事業者が持分会社の場合)

(ⅱ)認定事業者に対する議決権の過半数を保有する株主(認定事業者が株式会社の場合)

(ⅲ)認定事業者に対する匿名組合出資のうち、その過半数の出資持分を保有する出資者

(ⅳ)上記(ⅰ)~(ⅲ)の者の親会社(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する 11 規則(昭和 38 年大蔵省令第 59 号)第8条第3項に規定する親会社をいう。)

  

出典:第12回地域共生WG 資料1「改正再エネ特措法の施行に向けて」22頁

 

 ポイントとしては、①認定事業者が合同会社その他の持分会社である場合、非業務執行社員であっても現状のガイドライン案では「密接関係者」に該当すると考えられること、②いわゆるGK‐TKスキームなどで見られる匿名組合員も、過半数の出資持分を保有する場合には「密接関係者」に該当すること、③持分会社における社員、株式会社における議決権過半数を保有する株主および過半数の出資持分を保有する匿名組合員の各親会社も「密接関係者」に該当すること、の各点であり、これらの者を変更する場合にも説明会等の実施が必要となることが想定される点、実務上留意されたい。

 

5 改正再エネ特措法の経過措置、施行日までの実務上の対応

 第12回地域共生WG資料1「改正再エネ特措法の施行に向けて」14頁では、説明会等のFIT/FIPの要件化に関する経過措置についての言及があり、再エネ発電事業計画の新規認定申請・変更認定申請が改正再エネ特措法の施行日(2024年4月1日)以後となるものについては、2023年度の入札対象案件の例外を除き、特段の経過措置を設けず、FIT/FIPの要件化の対象とする方針が示されている。そして、2023年度の認定申請期限日(10kW以上の太陽光・風力・中小水力・地熱:2023年12月15日/バイオマス:2023年12月1日)よりも後に申請されたものについては、FIT/FIP認定が2024年4月1日以後になるため、説明会等のFIT/FIP認定要件化の対象となることが明確に示されている。

 上記方針を踏まえ、今後、改正再エネ特措法の施行日までの間に必要な対応を完了したいと検討する事業者においては、当該対象事由が現行法下において①変更認定申請が必要なものか、②事後変更届出で足りるものか、③上記①、②いずれも不要なものかによって、対応の可否および検討スケジュール、必要手続が異なってくると考えられる。特に、①変更認定申請が必要な対象事由(事業譲渡、設置場所の変更、認定出力の変更、(太陽光発電設備の場合)太陽光パネルの合計出力の変更等)については、すでに2023年度の変更認定申請期限日が経過しているため[3]、今後これに該当する変更認定申請を行う場合には改正再エネ特措法の施行日以後に行うことになり、説明会等の実施が要求されることに留意が必要である。

 

6 結語

 改正再エネ特措法の施行後における説明会等の実施については、実務上の取引スケジュールへの影響を含めて今後より詳細な分析検討が必要である。今後公布される施行規則および説明会等実施ガイドラインの内容を注視したい。

 

以 上


[1] https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/kyosei_wg/pdf/20231128_1.pdf

[2] パブリックコメントに付された改正施行規則およびガイドラインの内容は以下から確認できる。

・第12回地域共生WG 資料2「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法施行規則の一部を改正する省令案の概要」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/kyosei_wg/pdf/012_02_00.pdf
・資料3「説明会及び事前周知措置実施ガイドライン(案)」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/kyosei_wg/pdf/012_03_00.pdf

[3]「2023年度中の再エネ特措法に基づく認定の申請にかかる期限日等について(お知らせ)」(資源エネルギー庁新エネルギー課、2023年11月22日)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/dl/announce/20231122.pdf

 

(うだがわ・のりや)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー。2004年東京大学法学部卒業。2006年東京大学法科大学院卒業。2007年弁護士登録(第一東京弁護士会)。2016年University of California, Los Angeles School of Law (LLM)修了。2017年ニューヨーク州弁護士登録。ストラクチャード・ファイナンス、プロジェクト・ファイナンス、PPP/PFI、ファンド取引等の金融取引を幅広く取り扱っており、資源・エネルギー分野においては、再生可能エネルギー発電事業に関するスキーム構築、契約交渉等に関与し、豊富な経験を有している。

 

(すずき・けいすけ)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所シニアアソシエイト。2010年創価大学法学部卒業。2012年一橋大学法科大学院卒業。2013年弁護士登録(東京弁護士会)。2020年King’s College London(LLM, International Financial Law)修了(Distinction)。2023年1月~12月Pinsent Masons法律事務所Sydney Office勤務。資源エネルギー、プロジェクトファイナンス分野を中心に取り扱い、経済産業省電力・ガス取引監視等委員会への出向及びエネルギー分野を強みとする海外法律事務所での勤務経験を活かし、国内外のクライアントに対して、陸上・洋上風力発電を含む多数の再生可能エネルギープロジェクトに関するアドバイスを提供している。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
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