SH5043 米FTC、ICPEN、GPEN、購読サービスに影響を与えるダークパターンの使用に関する調査結果を発表 中崎尚(2024/08/05)

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米FTC、ICPEN、GPEN、購読サービスに影響を与えるダークパターンの使用に関する調査結果を発表

アンダーソン・毛利・友常法律事務所*

弁護士 中 崎   尚

1 はじめに

 米連邦取引委員会(FTC)は、70カ国以上の消費者保護当局の国際ネットワークであるInternational Consumer Protection and Enforcement Network’s (ICPEN)、80カ国以上のプライバシー保護当局の国際ネットワークであるGlobal Privacy Enforcement Network(GPEN)と協働して、ダークパターン(消費者を商品やサービスの購入やプライバシーの放棄に誘導する可能性があるデジタルデザイン手法)に関する年次報告(2024年版)(「年次報告」という。)を公表し[1]、ウェブサイトやモバイルアプリの大部分で可能性があると指摘するレビュー結果を発表した[2]。欧米の消費者保護規制が遅れて日本に導入された事例としては、ステルスマーケティングが著名であり、ダークパターンについても導入の可能性は否定できない。すでに国内でも問題意識が高まっているところであり、事業者として取り組みを検討するに際して、先行する欧米の議論は参考になるので、本稿では年次報告書の内容を詳しく紹介する。

 

2 年次報告書の概要

⑴ 調査方法

 ICPENの年次報告は、2024年1月29日から2月2日にかけて実施され、世界中の企業による定期購読サービスを提供する642のウェブサイトとモバイルアプリについて、ダークパターンの使用の有無が調査され、26か国・27当局の担当者が参加した。

 参加者は、経済協力開発機構が定めた慣行の説明を使用して、いくつかの種類のダークパターンを調査した。

 

⑵ 調査結果の概要

 このレビューの一環として調査されたサイトおよびアプリのほぼ76%が少なくとも1つのダークパターンを使用しており、ほぼ67%が複数のダークパターンを使用していた。これらの特定された慣行が違法な方法で使用されていたか、または影響を受ける国の法律に違反していたかどうかは報告されていない。

 

出典:年次報告、2頁

 

 レビュー中に最も多く見られた潜在的なダークパターンは、消費者の購入決定に影響を与える可能性のある情報を隠したり開示を遅らせたりする「こっそり行う手法」と、重要な情報を隠したり、消費者が企業にとってより有利な決定を下すように情報を誘導するような選択肢を事前に選択したりする「インターフェース妨害」という手法であった。

 

⑶ GPENとの協議

 ICPENは、GPENとレビューの調整を実施した。FTCも参加したGPENとの調整では、個人が意図する以上の個人情報を提供するよう促す可能性のあるデザインパターンを採用しているウェブサイトやアプリに重点が置かれた。ICPENのレビューと同様、さまざまな国で運営されているサイトのレビューに参加した26のプライバシー保護当局は、調査対象となったウェブサイトやアプリの大部分が少なくとも1つの潜在的なダークパターンを使用していることを発見した。これらの事例が法律違反のレベルに達しているかどうかについては明言していないが、これらの協議を踏まえて、ダークパターン技術が消費者の財布だけでなく、プライバシーの選択にも影響を与える可能性があることが強調されている。

 

⑷ FTCの取り組み

 今回の発表は、FTCが70カ国以上の消費者保護当局の国際ネットワークであるICPENの2024年から2025年の会長職を正式に務めることと時期を同じくするものである。

 FTCは長年にわたり、欺瞞的かつ違法なダークパターンを展開する企業の特定と取り締まりに取り組んでおり、2022年、FTCはスタッフレポート「ダークパターンを明らかにする」を発表している。ダークパターンの様々なパターンについては、そちらも参照されたい。

 

3 年次報告で指摘された主なダークパターンの手口

⑴ スニーキング(Sneaking)

 消費者の購入意思決定にとって重要だが、売上げ減少につながりそうな情報を隠す、あるいは開示を遅らせる手法をいう。ドリップ・プライシング(最初は安い金額を表示させ決済画面へ進むと、実際には送料や手数料、消費税などを加算する手法)やサブスクリプション・トラップ(無料トライアル後に同意なしに自動的にサブスクリプションを更新する手法)が代表的である。

 

出典:長谷川 敦士「ダークパターンとは」(国民生活センター「国民生活」2024年3月号3頁)

 

⑵ インターフェース干渉(Interface Interference)

 消費者が企業にとってより有利な意思決定をするように情報を誘導する試みと定義される。一般的に見られるインターフェース干渉のタイプは、偽の階層、事前選択、コンファームシェイミングである。偽のヒエラルキーは、有利な選択肢をより目立つように視覚的に提示することによって作り出される。無料トライアルとして開始されないサブスクリプションを提供するトレーダーの場合、38.3%が偽の階層を利用して、より目立つように選択肢を配置していることがスイープで判明した。

 

出典:株式会社SHIFTマーケティンググループ「ダークパターンとは何か?その種類や世界的な規制などをわかりやすく解説」(https://service.shiftinc.jp/column/4250/

 

⑶ 羞恥心・罪悪感の植え付け(Confirmshaming)

 消費者の意思決定を操作するために、消費者の特定の感情を呼び起こす言葉を用いる手法。

 

出典:株式会社SHIFTマーケティンググループ「ダークパターンとは何か?その種類や世界的な規制などをわかりやすく解説」(https://service.shiftinc.jp/column/4250/

 

⑷ 妨害(Obstruction)

 タスクの流れをより難しく、または面倒にすることで、消費者が行動を起こすことを思いとどまらせようとする手法。例えば、掃引の対象となったトレーダーのうち、解約情報を提供したトレーダーの大半は、解約手続を定期購入の申込みよりもはるかに困難なものにしていた。

 

出典:株式会社オレコン「Darkpatternsーダークパターンの種類 3.ゴキブリホイホイ」(https://darkpatterns.jp/types-of-dark-pattern/roach-motel/

 

⑸ 社会的証明(Social Proof)

 他の消費者の行動に基づいて消費者の意思決定を促す試みと定義される。定期購入商品と非定期購入商品の両方を販売する業者の21,5%では、他の消費者の行動に関する通知やその他の社会的証明を利用して、消費者に定期購入への加入を促していることが確認された。

 

出典:株式会社SHIFTマーケティンググループ「ダークパターンとは何か?その種類や世界的な規制などをわかりやすく解説」(https://service.shiftinc.jp/column/4250/

 

⑹ 行為の強制(Forced Action)

 特定の機能にアクセスするために、消費者にアクションの実行や情報の提供を要求する手法。例えば、今回の調査で調査されたケースの少なくとも66,4%において、業者は、購読の「無料トライアル」にアクセスするために、消費者に支払情報を記入するよう要求していた。

 

出典:長谷川 敦士「ダークパターンとは」(国民生活センター「国民生活」2024年3月号2頁)

 

⑺ 緊急性(Urgency)(タイムセール商法)

 製品やサービスを購入できる時間的または数量的な制限を本物または偽物にすることで、買い手に切迫感を植え付ける手法。例えば、カウントダウンタイマーや、商品の「在庫僅少」を謳うバナーなどである。

 

出典:株式会社SHIFTマーケティンググループ「ダークパターンとは何か?その種類や世界的な規制などをわかりやすく解説」(https://service.shiftinc.jp/column/4250/

 

⑻ ナギング(Nagging)

 特別オファーなどポップアップ画面を繰り返し表示して、しつこくリクエストを送り続ける手法。

 

4 おわりに

 欧米の消費者保護規制が遅れて日本に導入された事例としては、ステルスマーケティングが著名である。ダークパターン規制は欧米を中心に展開しており、日本ではまだ議論が始まった段階であるが、同じく日本に導入される可能性は否定できず、議論の動向には一層の注意が必要になってくる。

以 上


[1] https://icpen.org/sites/default/files/2024-07/Public%20Report%20ICPEN%20Dark%20Patterns%20Sweep.pdf

[2] https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2024/07/ftc-icpen-gpen-announce-results-review-use-dark-patterns-affecting-subscription-services-privacy

 

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(なかざき・たかし)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所スペシャルカウンセル。東京大学法学部卒、2001年弁護士登録(54期)、2008年米国Columbia University School of Law (LL.M.)修了、2009年夏まで米国ワシントンD.C.のArnold & Porter法律事務所に勤務。復帰後は、インターネット・IT・システム関連を中心に、知的財産権法、クロスボーダー取引を幅広く取扱う。日本国際知的財産保護協会編集委員、経産省おもてなしプラットフォーム研究会委員、経産省AI社会実装アーキテクチャー検討会作業部会構成員、経産省IoTデータ流通促進研究会委員、経産省AI・データの利用に関する契約ガイドライン検討会委員、International Association of Privacy Professionals (IAPP) Co-Chairを歴任。2022年より内閣府メタバース官民連携会議委員。

 

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業 https://www.amt-law.com/

<事務所概要>
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業は、日本における本格的国際法律事務所の草分け的存在からスタートして現在に至る、総合法律事務所である。コーポレート・M&A、ファイナンス、キャピタル・マーケッツ、知的財産、労働、紛争解決、事業再生等、企業活動に関連するあらゆる分野に関して、豊富な実績を有する数多くの専門家を擁している。国内では東京、大阪、名古屋に拠点を有し、海外では北京、上海、香港、シンガポール、ホーチミン、バンコク、ジャカルタ等のアジア諸国に拠点を有する。

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* 「アンダーソン・毛利・友常法律事務所」は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業および弁護士法人アンダーソン・毛利・友常法律事務所を含むグループの総称として使用

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