競争法上の企業結合規制 (上)
――Grabによる買収2件を具体的事例として――
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 福 井 信 雄
弁護士 小 宮 千 枝
1 はじめに
2024年7月、東南アジアの配車サービス最大手のグラブ・ホールディングス(以下、「Grab」という。)が、シンガポール内で3番目の規模を有するタクシー会社であるトランスキャブ・ホールディングス(以下、「Trans-cab」という。)の買収(以下、「本件買収」という。)を取り止めたことが報じられた。Grabは、本件買収を2023年7月に公表していたものの、本件買収がシンガポール競争法に抵触する疑いがあるとして、シンガポール競争当局(Competition and Consumer Commission of Singapore、以下「CCCS」という。)からの仮決定を受けた2週間後、本件買収を白紙に戻した。Grabは、2018年3月に行ったウーバー・テクノロジーズ(以下、「Uber」という。)の買収(以下、「別件買収」という。)の際にもシンガポール競争法への抵触を指摘されて制裁金が課され、将来的な取引に関しても一部制限がなされていた。
本稿では、Grabによる2件の買収取引を題材に、買収に伴うシンガポール競争法上の企業結合規制について概説する。
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(ふくい・のぶお)
2001年 東京大学法学部卒業。 2003年 弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2009年 Duke University School of Law卒業(LL.M. )。 2009年~2010年 Haynes and Boone LLP(Dallas)勤務。
2010年~2013年10月 Widyawan & Partners(Jakarta)勤務。 2013年11月~長島・大野・常松法律事務所 シンガポール・オフィス勤務。 現在はシンガポールを拠点とし、インドネシアを中心とする東南アジア各国への日本企業の事業進出や現地企業の買収、既進出企業の現地でのオペレーションに伴う法務アドバイスを行っている。
(こみや・ちえ)
2020年 慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2021年 東京大学法科大学院(司法試験合格により)退学。2022年 長島・大野・常松法律事務所入所。知的財産法分野、テクノロジー関連法務をはじめとして、企業法務全般に関するアドバイスを提供している。2024年7月~9月、シンガポール・オフィスにて研修。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、500名を超える弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
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