タイ:ヘルスケア分野におけるBOIの投資恩典の拡充
(高齢者向け施設・サービス)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
ヘルスケア分野はタイが近年特に力を入れて育成を図っている産業のひとつであるが、かかる分野への更なる投資の充実を図るためにタイ政府はタイ投資委員会(BOI)を通じて、この分野への投資へ新たな投資恩典を設けることを決定した。本稿では、高齢者向け施設・サービスに対して設定された新たな投資恩典について紹介する。
高齢者向けの医療施設・福祉サービス
タイは近年日本と同等の出生率となっており、社会の高齢化が加速している。来る高齢化社会に備えるため、BOIは高齢者向けのサービスの事業者に対し投資恩典を付与することを決定した。具体的な内容は以下のとおりである。
恩典の内容
通常の投資恩典に加えて、以下の恩典を受けることが可能である。
- ・ 高齢者向け病院:法人所得税の5年間の免除(上限額あり)
- ・ 高齢者向け介護サービスセンター:法人所得税の3年間の免除(上限額あり)
なお、通常の投資恩典は以下のとおりである。
- ・ 必要資材の輸入関税の免除
- ・ 外国人事業法上の外資規制の緩和(高齢者向けの医療施設の運営は外資規制の対象となる事業であるため、原則として外国人は同事業に従事できないが、本恩典を取得することにより外国人(100%外国資本)にて従事することが可能になる。高齢者向け介護サービスセンターの運営は恩典取得の条件として、タイ国籍者が登録資本金の51%以上の株式を保有していることが課されているため、外国資本100%での事業推進は不可)
- ・ 土地取得許可(注:タイの土地法上、外国人は土地を保有できないが、かかる投資恩典を取得した場合、外国人であっても例外的にプロジェクト用地(本恩典であれば病院やサービスセンターの用地)を保有することが可能となる)
- ・ 外国人ビザ及び就労許可手続の簡素化
恩典取得のための要件
恩典取得にあたって必要とされる条件は高齢者向け施設・サービスそれぞれ下記のとおりである。
(1)高齢者向け病院に要求される条件
- (a) 適切な医療人材の採用計画を有すること
- (b) BOIが承認するサービス提供用の道具及び機器を所有すること
- (c) 入院患者に対応するために50床以上の収容能力があること
- (d) 操業開始前に、特定患者病院の設立認可を得ること
- (e) 関連機関からの許可を取得し、保健省が定める専門職に求められる基準を該当職員が遵守し、かつ、その他適用のある関連基準も遵守すること
(2)高齢者向け介護サービスセンターに要求される条件
- (a) 健康事業設立法に基づく高齢者や介護サービスであること
- (b) 入院患者に対応するために50床以上の収容能力があること
- (c) 滞在可能な施設とした上で、高齢者や要介護者にケアと介護サービスを提供すること。また、高齢者や要介護者のための健康管理・増進・リハビリテーションの活動を行うこと
- (d) タイ国籍者が登録資本金の51%以上の株式を保有すること
- (e) 法人所得税免除恩典を行使する前に、医療機関の設立認可を得ること
- (f) 法人所得税の免税の対象となる収入は、高齢者への宿泊サービスの提供や飲食の提供を含む介護サービスに関連する活動に由来するもののみとすること
なお、上記の投資恩典は2020年11月より新たに追加されているが、2021年2月18日よりかかる投資恩典の申請を行うにあたり、オンラインでの申請を行うことも可能になった。
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(みのわ・しゅんすけ)
2005年東京大学法学部卒業、2007年一橋大学大学院法学研究科(法科大学院・司法試験合格により)退学。2014 年Duke University School of Law 卒業(LL.M.)、2014 年Ashurst LLP(ロンドン)勤務を経て、2014 年より長島・大野・常松法律事務所バンコク・オフィス勤務。
バンコク赴任前は、中国を中心としたアジア諸国への日本企業の進出支援、並びに、金融法務、銀行法務及び不動産取引を中心に国内外の企業法務全般に従事。現在は、タイ及びその周辺国への日本企業の進出、並びに、在タイ日系企業に関連する法律業務を広く取り扱っている。
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