◇SH3549◇タイ:タイにおける電子署名・脱ハンコの現状(2) 佐々木将平(2021/03/26)

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タイ:タイにおける電子署名・脱ハンコの現状(2)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 佐々木 将 平

 

(承前)

「信頼できる」電子署名

 電子署名のうち、以下の各要件を充たすものは、「信頼できる」電子署名となると規定されている(電子取引法26条)。

 

<電子取引法26条の要件>

  1. ① 署名生成データが、それが利用されている文脈の中で、他の者とではなく、署名者と結びついていること
  2. ② 署名生成データが、電子署名の生成の際に、他の者ではなく、署名者のコントロール下にあったこと
  3. ③ 電子署名の作成後の改変が検知可能であること
  4. ④ 情報が完全であること及び内容が改変されていないことを保証するための電子署名の法的要件に関しては、署名時点以降に行われる情報の改変が検知可能であること

 当該規定は推定規定であって、電子署名が信頼できないものであることの証拠を提示することを妨げるものではなく、また、この要件を充たさない電子署名を利用することも可能である(同条2項)。

 

 本ガイドラインにおいては、かかる電子署名の例として、公開鍵暗号基盤(PKI)を用いたデジタル署名が挙げられている。もっとも、電子取引法上の電子署名は技術的中立性を確保した形で定義されているため、公開鍵暗号基盤を用いたデジタル署名以外の方式でも、「信頼できる」電子署名に該当しうる。また、本ガイドライン上、「信頼できる」電子署名における本人確認の方法については、多要素認証(multi-factor authentication)を用いるとともに、最低一つの認証コードは暗号ソフトウェアを用いた暗号鍵を利用することが求められている。

 

法人における署名・ハンコの取扱い

 署名権限取締役や従業員が会社のために行う署名も、個人としての署名と同様に、電子署名により行うことが可能である。タイの会社においては、会社を代表して署名することのできる取締役(署名権限取締役)及びその権限内容が登記事項となっており、電子署名を行う際にも、当該登記事項に従う必要がある。すなわち、複数の署名権限取締役の共同署名が必要であると登記されている場合には、複数の署名権限取締役による電子署名が必要となる。

 

 また、登記上、会社印と署名権限取締役の署名の双方が必要であると定められているケースが多いが、その場合には、電子署名だけでは足りず、会社印の押印も必要となる。電子取引法上、会社印にも9条1項の規定が準用されるとの規定(9条3項)が存在するため、物理的に会社印を押印する方法以外に、電子的な押印も有効となり得る。具体的には、通常の電子署名と同様に、会社印の印影を電子的に貼り付けること等も、会社印の押印と同様の効果を有するものと考えられる。

 

電子化が認められない文書

 電子取引法において、「その意味が変更されることなく事後的な参照のためにアクセス及び利用できるデータメッセージの方式により生成される場合」には、電子文書も書面とみなされることとされている(8条1項)。各種法律上、書面によることが必要とされている取引が存在するが、かかる電子取引法の定めによって、それらの書面について包括的に、電子化が認められている。もっとも、例外的に、家族及び相続に関する書類については、別途下位規則により、物理的な書面による必要があると定められている。また、不動産売買や抵当権設定契約等の当局への登録が必要な書類等に関しては、引き続き書面によることが実務上求められている。

 

以 上

 


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(ささき・しょうへい)

長島・大野・常松法律事務所バンコクオフィス代表。2005年東京大学法学部卒業。2011年 University of Southern California Gould School of Law 卒業(LL.M.)。2011年9月からの約2年半にわたるサイアムプレミアインターナショナル法律事務所(バンコク)への出向経験を生かし、日本企業のタイ進出及びM&Aのサポートのほか、在タイ日系企業の企業法務全般にわたる支援を行っている。タイの周辺国における投資案件に関する助言も手掛けている。

長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/

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