タイ:デュアルユース品等の輸出管理を目的とした新告示の制定(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 翔 平
3 新告示の概要
■ 大量破壊兵器の拡散に関連する物品の管理措置
リスト1及びリスト2に記載されている品目の物品の輸出その他の規制対象活動を行う際には、TCWMD法上、輸出許可又は認証申請を行う必要はなく、これらの物品は、関係当局による事後審査の対象になり得るに留まる。具体的には、新告示によれば、日々の行政活動を通じて、警察局、陸軍局、科学技術開発局等の関係当局から商務省外国貿易局(「DFT」)に対して、大量破壊兵器の拡散のリスクがある物品が輸出される又は最終使用用途若しくは輸出先のエンドユーザーが大量破壊兵器の拡散に関連するとの疑いがある等のリスク情報が報告された場合に初めて当該物品がDFTによる審査の対象になる。
DFTは、かかるリスク情報を受領した場合、以下の3つの手順に従って、大量破壊兵器の拡散のリスク評価を行う。
- ⑴ 規制対象活動の対象となる物品がリスト1又はリスト2に記載の品目に該当するか否か
- ⑵ 規制対象活動に関連する人物(輸出者のみならず物品の購入者も含む。)が、国際連合安全保障理事会の統合リストに記載の者であるか又は大量破壊兵器の拡散に関連する人物若しくはグループに該当するか否か
- ⑶ 規制対象活動を行う者が、新告示に定める輸出管理内部規程(Internal Compliance Program)(「ICP」)に沿った体制を整備しているか否か及び大量破壊兵器の拡散のリスクがないことを証明するエビデンスを提出することができるか否か
上記⑶のとおり、DFTによるリスク評価の対象となった場合、輸出許可等の判断にあたって一つの重要な要素となるのが輸出者におけるICPの体制整備の状況である。新告示ではICPの体制整備の内容として大要以下のものを挙げている。
- • 管理業務の責任・分配システム
- • 使用用途・エンドユーザーの確認システム
- • 研修システム
- • 文書管理システム
- • 検査・改善システム
- • 報告システム
上記各システムの構築のための詳細はDFTが別途定める告示(「DFT告示」)において定められている。また、DFT告示によれば、ICPの体制整備の程度に応じて輸出者に体制整備に関するランクが付与されることになっている。具体的には、上記各システムの基準を満たした数に応じて以下のランクが付与される。
- • Good Level(2つ以上の基準を満たした場合)
- • Very Good Level(4つ以上の基準を満たした場合)
- • Complete Level(全ての基準を満たした場合)
このランク付けがどの程度リスク評価の際に影響を及ぼすかという点については、今後の実務の運用を注視する必要がある。
4 罰則
リスク評価に関する罰則は以下のとおりである。
- ⑴ リスク評価の結果、DFTによって命ぜられた措置に従わない場合:2年以下の懲役若しくは200,000バーツ以下の罰金又は双方
- ⑵ リスク評価の過程で虚偽の情報提供又は情報の隠蔽を行った場合:1年以下の懲役若しくは100,000バーツの罰金又は双方
法人が処罰の対象となる場合、法人の行為が、取締役等の指示若しくは行為によって生じた場合、又は、取締役等が指示を怠ったことにより生じた場合には、当該取締役等も同様に処罰の対象になる。なお、ICPの体制整備を行っていないことそれ自体は、罰則の対象にはなっていない。
5 輸出入管理法との関係
デュアルユース品等の輸出に関する規制は主としてTCWMD法に基づき行われることとなったが、特定の国に対する武器等の輸出については、依然として輸出入管理法に基づき禁止されている場合があるため注意が必要である。例えば、イエメンに対しては武器の輸出、ISIL及びアルカイダ組織に対しては武器及び経済資源の輸出、北朝鮮に対しては兵器、武器、液化天然ガス、石油製品、機械、鉄鋼等の輸出が禁止されている。
以 上
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(なか・しょうへい)
2013年に長島・大野・常松法律事務所に入所。プロジェクトファイナンス、不動産取引、 金融レギュレーション及び個人情報保護の分野を中心に国内外の案件に従事。2020年5月 にUniversity of California, Los Angeles School of Lawを卒業後、2020年12月より当事務所 バンコク・オフィスに勤務。現在は、主に、在タイ日系企業の一般企業法務及びM&Aのサ ポートを中心に幅広く法律業務に従事している。
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