タイ:個人情報保護法の下位規則の制定(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 中 翔 平
2022年6月1日、約2年間完全施行が見送られていたタイの個人情報保護法(以下「個人情報保護法」という。以下、条項が引用されている法令は原則として個人情報保護法)が完全施行された。個人情報保護法全体の実務上の注意点については、箕輪弁護士が執筆した「SH4047 タイ:個人情報保護法――①全面施行にあたってのチェックポイントと②下位規則の制定状況を踏まえた今後の注意点(1)」および「SH4050 タイ:個人情報保護法――①全面施行にあたってのチェックポイントと②下位規則の制定状況を踏まえた今後の注意点(2)」を参照されたい。個人情報保護法上、多くの規制は下位規則でその詳細が定められることが予定されているものの、同日までに下位規則の整備が間に合わなかったため、今後徐々に下位規則が整備されることが想定される。これに関連し、第一弾として、2022年6月20日に4つの下位規則(以下、個別に又は総称して「本下位規則」という。)が公表されたため、本稿ではその概要を述べる。
1 本下位規則の概要
⑴ 中小企業振興法に定める中小企業の記録の個人データの処理活動の記録の作成・保存義務の一部免除
個人情報保護法上、データ管理者は、原則として、個人データの処理活動の記録の作成・保存を行うことが求められているが、一定の小規模事業者については、データ主体の請求の拒絶に関する事項を除き、その記録の作成・保存義務が免除されていた(第39条第1項及び第3項)。もっとも、どのような者が小規模事業者に該当するかは下位規則に委ねられていたところ、本下位規則においては、小規模事業者の詳細が明らかにされた。実務上のインパクトが大きいものとしては「中小企業振興法に定める中小企業」が小規模事業者に該当することになったことが挙げられる。「中小企業振興法に定める中小企業」とは、以下のものをいう。
- ① 従業員数50人以下、又は、年間売上高が1億バーツを超えない製造業者
- ② 従業員数30人以下、又は、年間売上高が5千万バーツを超えないサービス提供、卸売又は小売業者
もっとも、以下の場合は個人データを保護する必要性が高いため、このような免除の適用対象外となり、原則通り、全ての個人データの処理活動の記録の作成・保存を行う必要がある点に留意されたい。
- ▷ データ主体の権利・自由に対するリスクを生じさせる結果になる可能性が高い場合
- ▷ 個人データの収集等が非定期的であるといえない事業の場合
- ▷ センシティブデータの収集等を伴う場合
⑵ 個人データ処理者の個人データの処理活動の記録の作成・保存方法
個人情報保護法上、データ処理者は、原則として、個人データの処理活動の記録の作成・保存を行うことが求められているが、データ管理者によるそれと異なり、その具体的な記録事項は下位規則に委ねられていた(第40条第1項第3号)。本下位規則では記録事項の詳細が明らかになっている。具体的には、以下の内容を記載することが求められる。
- ① データ処理者、データ管理者及びデータプロテクションオフィサーの情報
- ② データ管理者の委託に基づいて収集等される個人データ及びその使用目的等
- ③ 域外移転が想定される場合における移転先
- ④ 安全管理措置
残りの下位規則および今後の見通し等について、(2)にて解説する。
(2)につづく
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(なか・しょうへい)
2013年に長島・大野・常松法律事務所に入所。プロジェクトファイナンス、不動産取引、 金融レギュレーション及び個人情報保護の分野を中心に国内外の案件に従事。2020年5月 にUniversity of California, Los Angeles School of Lawを卒業後、2020年12月より当事務所 バンコク・オフィスに勤務。現在は、主に、在タイ日系企業の一般企業法務及びM&Aのサ ポートを中心に幅広く法律業務に従事している。
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