シンガポール:シンガポールにおける仲裁判断取消訴訟をめぐる動向(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 梶 原 啓
3 自然的正義の違反ありとされた例
- CEF and another v CEH [2022] SGCA 54[1] ー 2022年7月18日付け上訴裁判所判決
製鉄プラントの建設に関する設計建設契約をめぐり、建設業者たるCEFらと発注者のCEHとの間で建設の遅延やプラント生産能力不足に起因してCEHによる契約解除を含む紛争が生じ、2019年に概ねCEH勝訴の国際商業会議所(ICC)仲裁判断が出された。仲裁判断に含まれる三つの命令(権原移転命令、金銭返還命令、損害賠償命令)について、CEFらがシンガポールの裁判所に取消を求めた。最上級審である上訴裁判所は、権原移転命令と金銭返還命令については、自然的正義違反は認められないと判断した。他方、損害賠償命令については逆の結論をとった。当該損害賠償命令は、信頼利益の請求の25%の賠償を命じる内容であった。この点に関し、上訴裁判所は、信頼利益の損害を根拠付けるために提出された証拠が不十分であると仲裁廷は判断したにもかかわらず、上記の25%の賠償を認めるにあたって、各当事者に十分に主張の機会を与えることなく(厳密な立証を要求しない)「flexible approach(柔軟なアプローチ)」を採用したのは合理的な当事者にとって予測不可能であったこと、また、「flexible approach」を採用し適用した仲裁廷の理由付けが当事者の主張から逸脱するものであったこと等に照らし、自然的正義の違反があると判断した。
この記事はプレミアム向けの有料記事です
ログインしてご覧ください
(かじわら・けい)
国際商事仲裁及び投資協定仲裁をはじめとする国際紛争解決を扱う。日本国内訴訟にも深く関与してきた経験をいかし、アジアその他の地域に展開する日系企業と協働して費用対効果に優れた複雑商事紛争処理に尽力する。2013年弁護士登録(第一東京弁護士会)、長島・大野・常松法律事務所入所。2019年ニューヨーク大学ロースクール修了(LL.M. in International Business Regulation, Litigation and Arbitration; Hauser Global Scholar)。Jenner & Block LLPでの勤務を経て、2021年1月から長島・大野・常松法律事務所シンガポール・オフィスにおいて勤務開始。
長島・大野・常松法律事務所 http://www.noandt.com/
長島・大野・常松法律事務所は、約500名の弁護士が所属する日本有数の総合法律事務所です。企業法務におけるあらゆる分野のリーガルサービスをワンストップで提供し、国内案件及び国際案件の双方に豊富な経験と実績を有しています。
当事務所は、東京、ニューヨーク、シンガポール、バンコク、ホーチミン、ハノイ及び上海にオフィスを構えるほか、ジャカルタに現地デスクを設け、北京にも弁護士を派遣しています。また、東京オフィス内には、日本企業によるアジア地域への進出や業務展開を支援する「アジアプラクティスグループ(APG)」及び「中国プラクティスグループ(CPG)」が組織されています。当事務所は、国内外の拠点で執務する弁護士が緊密な連携を図り、更に現地の有力な法律事務所との提携及び協力関係も活かして、特定の国・地域に限定されない総合的なリーガルサービスを提供しています。
詳しくは、こちらをご覧ください。