判例コメント

そのほか

SH4633 最一小判 令和5年3月9日  マイナンバー(個人番号)利用差止等請求事件(深山卓也裁判長)

行政機関、地方公共団体その他の行政事務を処理する者が行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(令和3年法律第36号による改正前のもの)に基づき特定個人情報(個人番号をその内容に含む個人情報)の収集、保管、利用又は提供をする行為と憲法13条
そのほか

SH4627 最二小判 令和5年3月24日 共有持分移転登記手続請求事件(尾島明裁判長)

Xは、第1審において、いわゆる調書判決(民訴法254条1項)の方式により、自己の請求を全部認容する旨の判決を受けたが、その判決は弁論を終結した口頭弁論に関与していない裁判官が言い渡したものであり、民訴法249条1項(直接主義)に違反するものであった。そこで、Xは、第1審判決を取り消し、改めて自己の請求を全部認容する判決を求めて控訴をしたところ、原審は、Xの請求は全部認容されているから、控訴の利益が認められず、本件控訴は不適法であるとして、これを却下した。これに対し、Xが上告受理申立てをした。 本判決は、裁判要旨のとおり判示して原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。 2 説明 ⑴ 民訴法は、判決手続について、①判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする(同法249条1項)、②判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする(同法252条)ことなどを定めている。「基本となる口頭弁論に関与した裁判官」とは、弁論を終結した口頭弁論期日の審理に関与した裁判官をいう(兼子一『条解民事訴訟法〔第2版〕』(2011、弘文堂)1391頁〔竹下守夫=上原敏夫〕)。上記審理に関与した裁判官により判決書の原本が作成されていれば、その原本を他の裁判官が代読することにより判決を言い渡すことは何ら問題がない。 ところで、当事者間に自白が成立するなどの一定の事由がある場合には、いわゆる調書判決の方式により判決を言い渡すことができる(民訴法254条1項本文)。これは、原本に基づく判決の言渡し(上記②)の例外を定めたものであり、この場合であっても民訴法249条1項の規定(上記①)が適用されることに変わりはない。そして、調書判決の場合、判決書原本は存在せず、調書判決を言い渡した裁判官が判決をしたことになるから、弁論を終結した口頭弁論期日の審理に関与していない裁判官が調書判決を言い渡したときは、その判決手続には民訴法249条1項違反があることになる。そして、判決手続が民訴法249条1項に違反する判決には、「法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと」という再審事由(同法338条1項1号)があることにもなる。 ⑵ 上訴は、未確定の原裁判の取消し又は変更を上級裁判所に対して求める当事者の訴訟行為である。上訴の目的は、①当事者の救済、②法令解釈の統一にあるとされ、上訴が適法であるためには、原裁判により当事者が不利益を受けたこと、すなわち上訴の利益が必要であると解されている(前掲・兼子1522、1525頁〔松浦馨=加藤新太郎〕)。そして、上訴の利益の判断基準については、請求の趣旨と判決主文とを比較し、後者が前者に満たない場合に上訴の利益を認めるという形式的不服説が通説(伊藤眞『民事訴訟法〔第7版〕』(2020、有斐閣)733頁、上田徹一郎『民事訴訟法〔第7版〕』(2011、法学書院)596頁ほか)・判例(最三小判昭和31・4・3民集10巻4号297頁)である。 形式的不服説によれば、全部勝訴者には原則として上訴の利益は認められないことになる。もっとも、形式的不服説も、例外を一切認めないものではなく、例えば、予備的な相殺の抗弁が認められて請求棄却判決を受けた被告が上訴をする場合(前掲・上田597頁)や、第1審判決を取り消し、事件を第1審に差し戻す旨の控訴審判決を受けた控訴人が取消理由に不服があるとして上告をする場合(最一小判昭和45・1・22民集24巻1号1頁)等については、全部勝訴者であっても例外的に上訴の利益が認められるとしている。 ⑶ ただし、本件のように民訴法249条1項違反がある第1審判決に対して全部勝訴者が控訴をする場合に形式的不服説の例外として控訴の利益が認められるかについては、これまでの判例・学説上も明らかではなかった。なお、この点に関して参考になり得る議論としては、相手方(敗訴者)に代理権欠缺の瑕疵がある場合(民訴法338条1項3号)、将来、相手方から再審の訴えを提起され、確定判決が取り消されるおそれがあることをもって全部勝訴者にも例外的に上訴の利益を認めるべきであるとする見解がある(斎藤秀夫ほか『注解民事訴訟法⑼〔第2版〕』(1996、第一法規出版)478頁〔斎藤秀夫=奈良次郎〕、秋山幹男ほか『コンメンタール民事訴訟法Ⅵ』(2014、日本評論社)291頁等)。 これを本件についてみると、第1審の判決手続に民訴法249条1項違反がある場合、第1審判決には再審事由(同法338条1項1号)があることになり、将来、相手方が再審の訴えを提起すれば、再審の訴えの適法要件を満たす限り、再審開始決定がされ、その結果、確定判決が取り消されるおそれが生ずることになる。そして、判決手続に民訴法249条1項違反があることは、唯一の証拠方法である口頭弁論調書(同法160条3項参照)により直ちに判明する事柄である。このような第1審判決をもって紛争が最終的に解決されるということはできないのであって、これは全部勝訴者にとっても不利益な判決であるということができる。本判決は、以上のようなことから、第1審の判決手続に民訴法249条1項違反がある場合、全部勝訴者であっても、形式的不服説の例外として控訴の利益を認めるのが相当であると判示したと思われる。 ⑷ このように本判決を理解することが、これまでの伝統的な通説・判例の枠組みに沿うものであり、自然な解釈であるともいえるが、他方において、本判決は、第1審判決には民事裁判の根幹に関わる重大な違法(民訴法249条1項違反)があることも理由として挙げ、結論において控訴の利益の有無に言及することなく、端的に全部勝訴者であっても控訴を提起することができると説示している。このことは、判決手続に民事裁判の根幹に関わる重大な違法である民訴法249条1項違反がある場合には、控訴の利益の有無を問うまでもなく、それ自体をもって控訴を適法と解する余地があることを示唆しているともいえようか。最三小判平成24・1・31集民239号659頁は、処分権主義違反のある第1審判決に対し全部勝訴者と評価し得る者からされた控訴を適法と認めた事案であり、同最判をどのように理解するかは学説上も評価が分かれているものの、本件の参考になり得る。
そのほか

SH4623 最一小決 令和4年7月27日 検察官がした押収物の還付に関する処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件(堺徹裁判長)

捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用として許されないとされた事例
そのほか

SH4622 最一小決 令和4年12月5日 公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)違反被告事件(安浪亮介裁判長)

スカート着用の前かがみになった女性に後方の至近距離からカメラを構えるなどした行為が、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和37年東京都条例第103号)5条1項3号にいう「人を著しく羞恥させ、人に不安を覚えさせるような卑わいな言動」に当たるとされた事例
家族・相続・成年後見

SH4605 最二小判 令和5年5月19日 3番所有権抹消登記等請求事件(岡村和美裁判長)

 1 遺言執行者は、共同相続人の相続分を指定する旨の遺言を根拠として、平成30年法律第72号の施行日前に開始した相続に係る相続財産である不動産についてされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えの原告適格を有するか 2 相続財産の全部又は一部を包括遺贈する旨の遺言がされた場合における、上記の包括遺贈が効力を生じてからその執行がされるまでの間に包括受遺者以外の者に対してされた不動産の所有権移転登記の抹消登記手続又は一部抹消(更正)登記手続を求める訴えと遺言執行者の原告適格 3 複数の包括遺贈のうちの一つがその効力を生ぜず、又は放棄によってその効力を失った場合における、その効力を有しない包括遺贈につき包括受遺者が受けるべきであったものの帰すう
企業紛争・民事手続

SH4604 最一小判 令和5年3月2日 動産引渡等請求事件(山口厚裁判長)

いわゆる弁済受領文書の提出による強制執行の停止の期間中にされた執行処分の効力
担保・保証・債権回収

SH4582 最三小決 令和5年2月1日 根抵当権実行禁止等仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件(宇賀克也裁判長)

破産管財人が別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し又は上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときに、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するか
そのほか

SH4581 最二小判 令和5年3月24日 死体遺棄被告事件(草野耕一裁判長)

1 刑法190条にいう「遺棄」の意義 2 死亡後間もないえい児の死体を隠匿した行為が刑法190条にいう「遺棄」に当たらないとされた事例
監査・会計・税務

SH4574 最一小判 令和5年3月6日 消費税及び地方消費税更正処分等取消請求事件(安浪亮介裁判長)

消費税法(平成27年法律第9号による改正前のもの及び同改正後のもの)30条2項1号にいう「課税資産の譲渡等にのみ要する」課税仕入れと「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する」課税仕入れとの区別
業法・規制法対応

SH4560 最一小決 令和3年6月28日 薬事法違反被告事件(山口厚裁判長)

1 薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)66条1項の規制する「記事を広告し、記述し、又は流布」する行為の意義 2 薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)66条1項の規制する特定の医薬品等の購入・処方等を促すための手段としてされた告知といえるか否かの判断方法 3 学術論文の学術雑誌への掲載が薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)66条1項の規制する行為に当たらないとされた事例