SH5496 ドイツ付加価値税法と消費税法――第八話 課税手続 石川 紀(2025/06/25)

組織法務監査・会計・税務

ドイツ付加価値税法と消費税法
第八話 課税手続

石 川   紀

 

付録 ドイツ付加価値税法翻訳 石川 紀(2024/11/05)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第一話 電子インボイスの義務化について 石川 紀(2024/11/05)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第二話 輸出免税と免税店 石川 紀(2024/11/28)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第三話 プラットフォーム課税 石川 紀(2024/12/27)
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ドイツ付加価値税法と消費税法――第六話 内外判定と輸入消費税 石川 紀(2025/03/26)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第七話 納税義務の拡大――責任の規定と前段階税額控除の否認規定 石川 紀(2025/04/23)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第八話 課税手続 石川 紀(2025/06/25)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第九話 軽減税率、非課税、ゼロ税率 石川 紀(2025/08/06)
ドイツ付加価値税法と消費税法――第十話 旅行サービスに関する特別規定など 石川 紀(2025/09/26)
ドイツ付加価値税法と消費税法――補遺 段階的なインボイス電子化義務、時限的付加価値税減税など 石川 紀(2025/11/11)

 

はじめに

 消費税は1年間を課税期間とする税制として設計されており、大企業については電子申告が義務化されているものの、消費税法上は紙ベースでの申告納税を予定している。しかし、世界的にインボイスの電子化が進展していく傾向があり、我が国でも電子化が進展していくこととなれば、それをわざわざ紙ベースで申告することに意味はあるのかという問題が生じてこよう。さらに、前段階税額控除に関する電子インボイスのデータと納税者が発行した電子インボイスのデータの両方が税務当局にある場合、イタリアのように納税者に代わり申告書を税務当局が作成できるという可能性も生じて来る。[1]

 また、課税期間については、付加価値税のみならず、間接税一般に言えることであるが、顧客から間接税相当額を得るものの、申告納税の時期までその資金が手許にある保証がないという問題がある。中小企業の事務負担を考えれば、年に何度も申告をさせることは酷とも言えようが、他方で、手許流動性がなくなり納税できなければ滞納という問題を生ぜしめることとなる。付加価値税の課税期間の問題については、その前身の前段階税額控除の無い売上高税当時から問題視されており、1951年の売上高税法でも、原則暦月の申告納税が定められていた。

 さらに、インターネットの発達やプラットフォーム経済の発展もあり、海外の事業者が国内で財・サービスの提供を行い納税義務を負うことともなる。古典的な物品の処分権の移転時が租税債務の成立時期であると考えると、一体いつ処分権が移転したのかが判然としないという問題が生じる。プラットフォームの利用規約どおりと解釈することとなると、国外で処分権の移転があり、購入した消費者が輸出し、輸入するとも解釈できるという可能性もあり、プラットフォーム課税とは矛盾することともなる。

 我が国消費税法が参考とした第六次付加価値税指令が制定され、約50年が経過した今日、古典的な付加価値税の体系ではもはや対応できなくなっているのではないだろうか。

 

1 電子申告

 ドイツの付加価値税法と我が国消費税法の課税手続の差異の一点目は電子申告の義務の有無である。

 我が国消費税法では下記のような規定となっている。

 

  1.  「第四十五条 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、課税期間ごとに、当該課税期間の末日の翌日から二月以内に、次に掲げる事項を記載した申告書を税務署長に提出しなければならない。(後略)」

 

 紙ベースで申告することを原則とし、その例外として、情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律により、電子申告を認めるものとなっている。

 

  1.  「第六条 申請等のうち当該申請等に関する他の法令の規定において書面等により行うことその他のその方法が規定されているものについては、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、主務省令で定める電子情報処理組織(行政機関等の使用に係る電子計算機(入出力装置を含む。(中略)以下同じ。)とその手続等の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。次章を除き、以下同じ。)を使用する方法により行うことができる。」

 

 電子情報処理組織がいかなるものでなければならないかについては、法律に明確な定めがない。これについては、各省が省令で定めることとされている。その結果日本では行政毎にさまざまな申告や申請のシステムが動くこととなり、申請者側のシステムとは必ずしも相互運用性がない状況となっている。そのため、日本の電子手続は国民に義務を課すことが難しい状況にある。

 日本の電子申告システムはその中でも汎用性がある方ではあるものの、OSには限定がある。[2]また、行政の問題というよりは民間の問題ではあるが、日本の民間のEDIは、企業毎、業界毎にさまざまなEDIが並立しており、インターオペラビリティがないという問題が残っている。

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(いしかわ・おさむ)

亜細亜大学経済学部 特任教授
1983年東京大学法学部卒業。旧大蔵省に入省。ドイツ税制の調査に従事。独フライブルク大学留学。1989年の消費税導入時に白河税務署長を勤める。1992年から独フランクフルト総領事館にて、ドイツの財政・金融政策を担当。平成の金融危機時には金融機関の破綻処理、不良債権処理に従事し、その間、海外の破綻処理法制についての論考も執筆。2006年~2008年国税庁徴収課長を勤めた後、2010年から在ベルリン日本大使館公使としてドイツの財政・金融政策を担当。帰国後は、名古屋税関長、関信国税不服審判所長、神戸税関長等を勤めた。2019年に財務省退官。2025年4月から亜細亜大学経済学部で教鞭をとる。

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