SH4080 Legal Operationsの実践(1)――Legal Operationsとは何か?―― 川口言子(2022/07/27)

法務組織運営、法務業界

Legal Operationsの実践(1)
――Legal Operationsとは何か?――

千代田化工建設株式会社

川 口 言 子

 

  • Legal Operationsの実践(23)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(上)
  • Legal Operationsの実践(24)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(下)

 

1 Legal Operationsとは

 Legal Operationsという概念を広めた団体である米国Corporate Legal Operations Consortium (CLOC)によれば、Legal Operationsとは「ビジネスや他の専門実務を法務サービス提供の際に適用し、法務部門が『顧客』に対してより効率的に業務提供できるようにする一連のビジネスプロセス・活動や専門家」を指す[1]。このLegal Operationsが「戦略立案、財務・プロジェクトマネジメント、テクノロジーの専門知識を提供することで、法務専門家はアドバイス提供に集中できるようになる」という。

 Legal Operationsは、米国で2000年前後に専門・専任職として認知され始めたようである。それが、CLOCの調査によれば[2]、2020年には回答企業の約8割にLegal Operations担当が置かれ、その数は企業内弁護士8ないし12名あたり1名、Legal Operations部門の約6割は直接法務トップ(General Counsel)にレポートするようになっている[3]。シニアポジションの年俸は現金給付部分のみだけでも中央値で3,500万円に迫るというデータもある[4]

 企業では、本来業務を遂行するチーム・人員とは別に、組織の年間計画や予算策定、あるいは業務遂行に必要な機器・サービス導入を担当するチーム・人員がいるのは珍しくない。ではなぜ、こと法務部門に関して、Legal Operationsという概念が21世紀に入って広まったのか、時間をさかのぼって追ってみたい。

 

2 米国での歴史[5]

 米国では1990年代、GE、Bank of America、Prudential等が法務部門の効率的運営のため専任者を採用し始めた[6]。2000年代には、Oracleが法務部門の他社比較(ベンチマーキング)等を目的に初代Legal Operations ExecutiveのConnie Brentonを採用した。Connieは、Hewlett-PackardのLegal OperationsトップStephanie Coreyや、弁護士費用削減などに取組むGoogle初代Legal Operations DirectorのMary O’Carrollらと共に、自分たちの共通課題を議論する会を始めた。参加者は当初40名程度だったが、2015年にCLOCとして非営利団体化、2016年には会員500名を集めるまでになった。

 弁護士費用削減やベンチマーキングのために専任者まで採用するというのは、日本では違和感があるかもしれない。しかしThomson Reutersによれば、2017年の米国企業の法務関連費用は平均で売上(Revenue)の0.39%であった。これは世界平均(0.23%)、英国(0.24%)の倍近く、また、日本(0.03%)の13倍であった[7]。しかも同時期の米国テクノロジー系企業の同費用は平均で売上の0.68%、日本平均の約23倍であった[8]。米国企業、とりわけテクノロジー系企業にとり弁護士費用削減がいかに大きな経営課題だったかが垣間見える。コストは感覚的に高い・低いというのではなく、データを基に議論するとはっきり問題があぶりだされる。Legal Operations専任者らが弁護士費用と並びベンチマーキングに注力したのも理解できる。

 弁護士費用削減やベンチマーキングを扱っていたLegal Operationsは、すぐに守備範囲を戦略、ナレッジマネジメント、ITその他のシステム・機器提供、社内プロセス改善等に広げた。そして2018年CLOCはLegal Operationsの対象領域と成熟度を示す「Core 12」[9]、2020年にはその改訂版を公表した[10]

 CLOC創立者等は、法務部門の課題解決のため外部から招聘されており、必ずしも正式な法学教育を受けた人ばかりでもない(法学以外のPh.D、MBA保持者などもいる)。また、彼らは2000年代に勃興した西海岸発のIT企業出身者も多い。こうした背景も手伝ってか、CLOCのLegal Operationsの定義やCore 12には、Legal Operationsが法務部門を牽制し主導するという意欲、インハウスとは別の専門職として対等だという意思を感じる。

 2022年3月末日現在、全世界57か国に渡って、CLOC会員は4,238名にまで増えている。

 以上はCLOCを中心とした動きだが、時を一にしてAssociation of Corporate Counsel(ACC)もLegal Operationsに取組み始めた。

 ACCは、1981年に米国大企業・組織の法務トップ(General Counsel)等が創立したAmerican Corporate Counsel Association(ACCA)を前身とする、会員数4万5千の世界的な組織内弁護士団体である[11]。そのACCが、CLOCが非営利団体化した2015年にはLegal Operations部門を立上げ、その会員には弁護士資格を求めなかった。CLOCがCore 12を発表した2018年、ACCも14分野からなるLegal OperationsのMaturity Modelを発表[12]、CLOCが改訂版を出した2020年にはACCも改訂版を発表している[13]

 ACCはLegal Operationsを「法務トップ(General Counsel)の任務(office)内にあって、企業のために効率的・効果的な法務サービス提供を可能とする責務を負う。専任のLegal Operations担当者は人員、プロセス、テクノロジーの採用・配備、意思決定やパフォーマンス管理のためのデータ活用に注力する。」と定義している[14]。元来組織内弁護士団体であることが影響してか、CLOCに比べると、ACCはLegal Operationsの重要性を認めつつ、それが法務トップ管下にあることを強調しているように読める。

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(かわぐち・あきこ)

1999年4月に三菱商事株式会社に入社。2007年から11年に外資ファンドに転職したほか、三菱商事では欧州アフリカ・中東CIS地域を支援する欧州拠点の法務部長、本店法務部長代行などを務めたのち、2021年3月から千代田化工建設株式会社に出向、現在は同社総務本部の本部長補佐として総務、法務、広報・IR、サステナビリティ等を所管する。日本組織内弁護士協会リーガルオペレーションズ・テクノロジー研究会座長、日本版リーガルオペレーションズ研究会メンバー、CLOC Japan Shared Interest Groupの創立メンバーの一人でもある。

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