SH4150 Legal Operationsの実践(5)――Firm and Vendor Management 齋藤国雄(2022/10/03)

法務組織運営、法務業界

Legal Operationsの実践(5)
――Firm and Vendor Management――

LINE株式会社

齋 藤 国 雄

 

  • Legal Operationsの実践(23)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(上)
  • Legal Operationsの実践(24)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(下)

 

1 はじめに

 本連載第5回目となる本稿では、Corporate Legal Operations Consortium(CLOC)のCore 12(詳細は第2回)のうちFirm and Vendor Managementについて、その概観を述べるとともに、筆者の経験に基づく取組み例を紹介する。

なお、本稿は筆者の所属する組織の見解を述べるものではなく、文責は筆者自身にある。

 

2 Firm and Vendor Management

⑴ Firm and Vendor Managementとは

 Firm and Vendor Managementとは、直訳では外部法律事務所や法務関連サービスのベンダーの管理を意味する。その目的は単なる費用の削減ではなく、外部弁護士等の専門性を自社に合う形で最大限に発揮してもらう点にある。

 CLOCは、その現状を、「外部法律事務所やベンダーはしばしば戦略的な理由または個人的な関係性によって選択される。明確な代替案がないことから、従来の価格や人材配置のモデルを継続しがちである」と述べている[1]

 そして、あるべき状態を「戦略的なビジネス目標をサポートする価値を提供する、長期的な法律事務所やベンダーとの関係を構築、維持、強化する。法務チームの能力を補完する才能、専門知識、技術を導入する。透明性を向上させ、革新性と効率性に見合った柔軟で公正な条件を定義する。」と表現する。つまり、法律事務所やベンダーの起用についても、長期的な視点での、自社のビジネス戦略に沿った関係性の構築が必要ということである。たとえば、自社が新しい事業を展開しようとしている際には、法務部門として当該分野の法務知見を蓄積するとともに、当該分野で頭角を現してきている弁護士・法律事務所を把握するとともに、将来の案件に備え、(たとえば、法務部門向けのセミナーを実施してもらうなどして)いち早く関係性を構築していく、といった戦略的なアプローチが求められる。

 その上で、①ビジネスニーズを反映した、公正で効果的な提案依頼書(RFP)の作成、②法律事務所との代替料金の取り決めなど、ポジティブなインセンティブを生み出す料金および価格設定モデルの交渉、③構造化されたビジネスレビューによる透明性と説明責任の向上、④新しい関係性や連携のための機会の発見、⑤ベンダーに対するデュー・ディリジェンスによるコンフリクト等の問題の防止および⑥新規ベンダーや法律事務所の迅速かつ効率的なオンボーディングを、あるべき状態へ到達するためのアクションとして紹介している。たとえば、シアトルに本社を置くIT大手は、毎年関係性の深い法律事務所(12事務所程度)を招待して、それぞれの法律事務所が如何にイノベーティブな方法で当該企業に法的サービスを提供できるかプレゼンする機会を設け、それぞれの法律事務所との関係性強化につなげている。こういった取組を参考に、たとえば、弁護士報酬支払上位2-3事務所と、定期的にレビューの打合せを行い、関係性強化やサービス提供・料金体系の改善につなげていくことも考えられるのではないか。外部弁護士と社内弁護士の役割は異なるが、外部弁護士にとっても、当該企業のことをより深く知ることで、より良い法的サービスを提供できる点では同様であるため、こういった機会を通じて、自社の事業戦略や向こう1年間に予定されている案件の情報を共有し、自社のことをより深く知っていただくことも有益と思われる。上記のIT大手の例に戻ると、側聞する限り、米国の法律事務所は、依頼者の事業戦略や潜在的な案件についての見識を深めることは必要経費と認識しているようで、特にチャージすることなく「Client Development」の一環として対応しているようである。

⑵ 近年の動向

 外部法律事務所は、以前から法務部門の主要な発注先[2]であり、弁護士費用の管理自体は特段新しい問題ではない。これは米国でも同様であるようで、たとえばGoogle社の最初のLegal Operation DirectorであるMary Shen O’Carroll氏も、着任後最初に目を向けたのは外部弁護士費用の支払いとFinancial Managementであると語っている[3]

 他方、近年は電子署名をはじめとするリーガルテック関連のサービスが続々と登場しており、そのベンダー管理の重要性が増している。リーガルテック関連サービスは、その多くがSaaS[4]等による継続課金の形態を採っており、導入が容易である反面、導入したまま使われなくなったり、退職者のアカウントが削除されないまま課金されてしまったりというような事態が生じやすい。近年はSaaSを管理するSaaSなども登場しているが、上記のような事態に陥る前に、SaaSの導入手順を明確化し、導入中のサービスをリスト化するとともに、各サービスの社内における管理者を明確にすることが重要であると考えられる。

 また、米国を中心にAlternative Legal Service Provider(以下、「ALSP」という。)の利用が増加している[5]。日本企業によるALSPの利用については、本連載の第19回目で紹介する予定である。

この記事はフリー会員の方もご覧になれます


(さいとう・くにお)

LINE株式会社法務室副室長。弁護士。一般民事系法律事務所、情報・通信業界の上場企業でのインハウスを経て、LINE株式会社でコーポレート法務部門を担当した後、現職。日本組織内弁護士協会リーガルオペレーションズ・テクノロジー研究会、日本版リーガルオペレーションズ研究会及びCLOC Japan Shared Interest Groupに所属。『現代型民事紛争の実務Ⅰ』(青林書院、2020)、『現代型民事紛争の実務Ⅱ』(青林書院、2020)共著。

タイトルとURLをコピーしました