Legal Operationsの実践(9)
――Practice Operations――
江崎グリコ株式会社
橋 本 孝 史
1 はじめに
本連載第9回目となる本稿では、Corporate Legal Operations Consortium (CLOC)のCore 12(詳細は第2回)のうち、Practice Operationsについて、その意義を概観し、筆者の経験に基づく取組みの例を紹介する。
なお、本稿において意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であり、所属する組織の見解を述べるものではない。
2 Practice Operationsとは
Practice Operations、すなわち業務フローは、Legal Operations全体に関連するような広範な概念であるが、CLOCでは、「法務に関する方針や手続、および法務部門における効率を最大化するための人員の管理や調整」と定義されており、法的問題の解決に適切な活動や業務に最大限効率的にリソースを分配し割り当てるために、批判的思考法、戦略的計画立案、戦術的実行を駆使し、リーガルサービスの提供方法や法務組織の設計等を最適化する各種活動を含むものとされている[1]。
そして、あるべき状態を、「弁護士たちを法務業務に専念させ、彼(彼女)らがオペレーショナルな業務やプロジェクトに割く時間を最小化すること。e-Discovery、契約管理、知財管理等における分野特有のオペレーションについては、それらについて訓練されていて経験もあり、効率的で柔軟なチームを組織する。」としている。
実際、CLOCのPractice Operationsに関するフォーラムでは、Legal Holdやe-Discovery対応等の訴訟関連のトピックがかなりの割合を占めており、それに知財管理やM&A等のトピックが続く状態となっている[2]。他方、多くの日本企業では、法務部における業務の中心を占めるのは日常的な契約審査や法律相談であり[3]、訴訟対応は金融機関等の一部業種を除き、どちらかといえば特殊な業務に位置づけられる。また、日本における訴訟は、米国におけるそれと異なり、Litigation HoldやDiscovery等の多大な費用と労力を要するプロセスがそもそも法制度上存在しない。そのため、日本の法務部門におけるPractice Operationsの関心の重心は、契約審査や法律相談といった、(弁護士に限らない)法務部員[4]らが日常的に行う業務を、いかにして最大限効率化するかという点にあると思われる。
そこで、本稿では、契約審査やそれに付随する法律相談といった日本企業の法務部において日常的に取り扱われている契約関連の業務を中心に据えて、Practice Operationsの考察を行いたい。
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(はしもと・たかし)
江崎グリコ株式会社 法務部契約グループ長。
京都大学大学院法学研究科修了後、2011年弁護士登録。国内法律事務所勤務を経て、2015年より現職(2019年より契約グループ長)。