SH4318 Legal Operationsの実践(14)――Training and Development 多賀谷健司/オーサチ ダリル/宮田照三(2023/02/20)

法務組織運営、法務業界

Legal Operationsの実践(14)
――Training and Development――

株式会社JERA

多賀谷 健 司

オーサチ ダリル

宮 田 照 三

 

  • Legal Operationsの実践(23)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(上)
  • Legal Operationsの実践(24)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(下)

 

 この記事では、Corporate Legal Operations Consortium (以下CLOC)のCore 12のうち、 ”Training & Development” 「トレーニングと能力開発」について、その背景と法務部員向けプログラムの一例を説明する。

 

1 背景

⑴ CLOCの問題意識

 Core 12では”Training & Development”の現状について、多くの法務部門が、「新入社員のオンボーディングをほとんど行わず、彼らに積極的に働きかける機会を逸している」と指摘する。そして、法務部門の望ましい状態として「質の高いトレーニングによって、法務部員が実力を発揮している」、「魅力的な新入部員体験がデザインされている」、「重要な新分野でのスキルアップを支援できている」などを挙げている[1]

⑵ これまでの企業法務の人材育成

 まず、日本企業の法務部門がこれまで法務人材をどのように育ててきたのかを振り返ってみたい。

 日本では、企業の法務部門もかつては従業員に高度な専門性までは求めず、ジョブローテーションの下で人材育成していたケースが多かったように思われる。

 しかしながら、高度化・複雑化する案件、高まるリスクに迫られて、法務専門性の重要度が改めて認識され、多くの企業が法務人材の育成に力を入れたり、インハウスで法曹資格者を雇用したりするようになったのが、2000年代ごろからのトレンドと言えるだろう。

 これはまた、日本における法科大学院の開校や法曹資格者の増加、つまり法科大学院の修了者や法曹資格者が企業の法務部門を働く場所に選び始めたこととも重なる[2]

⑶ 「メンバーシップ型」vs.「ジョブ型」

 次に、日本と海外の雇用慣行の違いについても言及しておきたい。

 日本では、よく言われるように、「メンバーシップ型」雇用が一般的であった(今も多くの企業がそうである)。従業員が遂行する職務は労働契約で定められておらず、従業員は数年ごとにさまざまな職務に従事する。一方で、欧米をはじめとする海外の多くの国では「ジョブ型」雇用が一般的である。従業員はジョブ・ディスクリプションに記載された職務の提供を雇用主と契約し、会社はその対価を支払う[3]。そうした中、欧米企業では従前より、法務部のほぼ全員が法曹資格を有し、専門人材として活躍してきた。

 このように書くと、日本企業の法務部門が遅れていただけのように思われるかも知れないが、必ずしもそうではない。司法試験や司法修習、法律事務所で習得する内容と、企業の法務部門で求められるスキルは、異なる点も多いためである。メンバーシップ型雇用では従業員が組織の文化にフィットするかどうかを重視するので、入社時の全社研修を含めたトレーニングや能力開発がしばしば実施される。企業の法務部門では、自社ビジネスへの深い理解や社内手続き、関係部署の関心事を熟知した上での業務の取り回しが前提となるため、日本的と言われる入社時の全社研修やその後のジョブローテーションが果たしてきた役割は決して小さくない。

 とは言え、キャリア観の変化や雇用の流動化によって転職が当たり前になりつつある今、これまで通り長期雇用を前提としたOJT (on-the-job training) だけでは時間軸が合わなくなっていることも間違いない。また、ビジネスのスピードアップにより、知識が陳腐化する度合いも加速している。リスキリング(学び直し)が注目を浴びているように、若手だけではなく、中堅・ベテラン層も含めたトレーニングと能力開発が必要とされる所以である。

⑷ 多様なメンバー、複雑なニーズ

 前述のとおり、日本においても転職が当たり前になりつつあり、企業の法務部門に、これまで以上に多様なメンバーが所属するようになっている。法曹資格者(日本法、外国法)はもちろん、コンプライアンスなど法務の近接領域の経験者、本連載のテーマであるリーガルオペレーションの専門家、他業界の経験者、言語、会計、マーケティング、コミュニケーションなど企業の法務部門が欲するスキルセットも今後大きく広がっていくだろう。多様なメンバーにトレーニングと能力開発の機会を用意し、いかに成長軌道に乗せていくかは、法務部門の腕の見せ所である。

この記事はフリー会員の方もご覧になれます


(たがや・けんじ)

株式会社JERA 法務部長
政府機関である日本輸出入銀行J-ExIm、国際協力銀行JBICにおいて、法務や海外のインフラ・資源・石化プロジェクトファイナンスを担務。Allen & Overy法律事務所Projects Group、EBRD欧州復興開発銀行Office of the General Counsel(いずれも英国)などを経て、2016年JERA入社。2019年より現職。
京都大学法学部卒、米Georgetown University Law Center LL.M.修了

 

(おーさち・だりる)

株式会社JERA 法務部 リーガルオペレーションユニット 課長
WilmerHale法律事務所ワシントンDCオフィス、Paul Hastings 法律事務所東京オフィス、Ernst & Young Japanフォレンジック事業部などでクロスボーダー案件、訴訟、反トラスト案件、日本国内調査を担当。2021年JERA入社。
米 University of Cincinnati College of Law 修了。米国法弁護士。公認情報プライバシー専門家(CIPP/EU)。セドナ・カンファレンスの論文やパネルに寄稿している。

 

(みやた・しょうぞう)

株式会社JERA 法務部リーガルオペレーションユニット 主任
富士通株式会社のグループ子会社(金融・官公庁系システム開発)で事務系ゼネラリスト(システムエンジニア、企業法務一般、総務)として勤務。テック系スタートアップを経て、2020年JERA入社。現在に至る。
早稲田大学国際教養学部卒。応用情報技術者。

タイトルとURLをコピーしました