SH4546 Legal Operationsの実践(24・完)――連載の終わりにあたって(座談会・下)(2023/07/17)

法務組織運営、法務業界

Legal Operationsの実践(24・完)
連載の終わりにあたって(座談会・下)

日 時:2023年5月22日19:00-

参加者:
(モデレーター)
門永真紀(アンダーソン・毛利・友常法律事務所)

鈴木 卓(三菱商事株式会社)
宮田照三(株式会社JERA)
齋藤国雄(LINE株式会社)
能勢 明(積水化学工業株式会社)

 


 

(座談会・上はこちら)

 

門永
門永

前回に引き続きLegal Operationsに関する各社の取組みや課題に関する座談会を続けてまいりたいと思います。
御社が今抱えている課題があれば、お聞かせください。

齋藤
齋藤

現在でいうと、ナレッジマネジメントに課題を感じています。特に契約書締結前の、相談を受け付けるフォームが実は決まっていません。ワークフローもあれば、メールもあれば、チャットもあれば、場合によってはZoom会議で案件がチェックインすることもあるという状況で、いろいろな方法で案件のチェックインをしています。契約書の管理自体は自社グループで使っているシステムで契約期限等も含めてきっちり管理されており、デジタルに管理できています。しかし、案件のチェックインがさまざまなやり方があるので、どうしても契約締結前の検討内容や、たとえばコーポレートガバナンス関係のイシューのように最終的なアウトプットが契約書ではないものについて案件をどのように議論したかという記録が、個々人のメールなど色々な場所に散在してしまっている実情があります。今のところ大きな事故が起きているわけではないのですが、これはやはりあまり良い状態ではありません。せっかく法務部門が日々アウトプットを出しているのだから、それが会社の財産になっていかないといけない。この意味でも、チェックインを一元化できないかということは、ずっと大きな課題として取り組んできています。

門永
門永

Kowledge Managementに関するお話が出ましたが、他の皆さんはいかがですか。自社の取組みや、共通する問題意識等があればお願いします。

能勢
能勢

当社では契約ワークフローを入れました。動機は比較的単純で、メールがパンクしそうになっていたので、システム上でタスク管理をした方がよいということでした。ワークフローの導入によって実際にタスク管理は大幅に改善されましたが、同じぐらい大きな効果は、他の人の回答が見られるようになったり、過去のものを検索できるようになったことです。齋藤さんがおっしゃったようにそれらはとても貴重な財産です。そこに全員がアクセスできるようになった効果は大きく、ワークフローを導入してよかったと思っています。

門永
門永

御社のワークフローは、相談を受け付ける段階では担当者は決まっておらず、法務部全体に入ってくるのでしょうか。

能勢
能勢

上司グループに入ってきて、担当者を割り当てる仕組みになっています。

門永
門永

ワークフロー経由で回答することによって、回答内容を法務部員の皆が見られるのですね。

能勢
能勢

おっしゃる通りです。

齋藤
齋藤

2点ほど質問をさせていただきたいのですが、1点目は法務の問題は時にセンシティブで、ノウハウとしては非常に貴重なのだけれど公開範囲を限定したいようなとき、そういうものをワークフロー上でどう処理しているのでしょうか。2点目は、たとえば事業部の方が相談してくる場合、相談先は法務だけではなくてたとえば財務部門や、セキュリティ部門でもあると思いますが、部署ごとに違うツールを使ってしまうと、各部門の中では一元化できてハッピーなのだけれど、相談する主体としては結局相談先ごとに複数の違うワークフローを入れなければいけないという問題が生じると思うのですが、どのように対応されているか、もし差し支えなければ、お伺いできますか。

 

能勢
能勢

ありがとうございます。1点目は、契約審査ワークフローとして使い方を限定していまして、センシティブなことも多いいわゆる相談案件は入ってきません。また、契約案件の中でも、極めて秘匿性の高いものに関しては、あえてワークフローから外す運用をしています。ただそのような例外処理が行われることは非常に少ないです。このように、相談案件を対象外にし、センシティブな契約ものは載せない対応をしています。2点目のサービス乱立の問題については、確かにあると思います。ただ、卵が先か鶏が先かというところはあるのですが、以前のメールでの対応からワークフローに移行して使ってもらった感触は概ね好評でして、現在は全社で統合されたシステムを入れようという話になっています。調整できずに止まるぐらいであれば一時的に乱立する状態はあえて許容して、それでも導入することを優先した方がいいのではないかと思ったりします。そのうえで、最終的には統合した方がみんなハッピーだと思います。

齋藤
齋藤

最初からみんなで統合したものを作ろうとすると、なかなかローンチしないので、まずはそれぞれ別のものを使ってみて、良さを実感してもらってから統合する方が、結局ゴールにたどり着きやすいということでしょうか。

能勢
能勢

そう思いますね。特にSaaSは自社開発のシステムと比べると切り替えやすいので、後から統合することもやりやすいかなと思っています。

門永
門永

最後に、宮田さんからはいかがでしょうか。

宮田
宮田

座談会の参加に先立ってマネージャーから提示されたLegal Operationsの三つの課題を読み上げます。①法務のナレッジマネジメントのシステム化、②関係会社法務部門との連携の強化、③長期的視野に立った法務人材育成プランを作る、以上です。私もこれらの課題を理解できるものの、実際にはさほど携わっていません。私があえてこの場で話すならば、各チームが普段回している業務フローの「スクラップ&ビルド」が、私にとっての課題です。既存のワークフローを動かしつつ変えるのはやはり大変です。マネージャーが担当者に号令をかけるだけでは進みません。なぜなら、担当者は作業を抱えているからですね。皆さんがおっしゃっていたように、環境づくりや準備をLegal Operationsチームが用意しなければ、担当者はやらないし、やれません。加えて、他チームの担当業務をLegal Operationsチームが知らない、ということがしばしばあります。当然に遂行している業務内容を掘り起こさなければいけないのですが、これは手間がかかります。「なぜそれをやっているのか」、「なぜメールで送っているのか」っていうことを聞いたり、さらに「なんでそれがメールなんですか」と掘り下げたりしながら進めるので。実情を聞いた上で変えられそうなら変えるし、変えなくても良いのであれば変えないということを決めていくイメージです。一つひとつを、地道に確認しています。

齋藤
齋藤

社内コンサル部門みたいな感じですね。

 

宮田
宮田

私の感覚ではそうですね。私がLegal Operationsを法務業界外の人に説明するときには、「法務系コンサルタント」と呼称しています。「法務系」は法務の世界で仕事をしているから、「コンサルタント」は業務改善やオペレーション改善の話をしている人、という意味合いです。

齋藤
齋藤

1点お伺いしたいのですが、弊社でLegal Operationsチームの構成についてよく議題になります。弊社のメンバーは先程申し上げたように全員法務部門の外から来ているので、法務で普段実務を回していた人をチームに加入させてほしいという意見が出てきます。今宮田さんがおっしゃったことと近いのですが、そうでないと業務の本当の機微のところがわからないので、自分たちが考えている企画が響いているのか響かないのか、響いていないとするとなぜなのかという温度感がつかみづらいという話がよく出てくるのです。そのあたりについて、御社では法務から人を引っ張ってきたいという議論はありますか。

宮田
宮田

今のところそのような議論はありません。それに関しては、私が自分のバックグラウンドを使っている、という点があります。私は1人法務を1社目で6年やっていたので、契約書レビューや取締役会運営など企業法務の機能や役割をある程度分かっています。もちろん、今の法務部の各担当者が細かいレベルでどんな業務に従事しているかまでは把握していません。しかしながら、当時の実作業の感覚がかろうじて私に残っているので、担当者に「何をしているんですか」と質問したときに、相手との会話がある程度成立しています。その点で齋藤さんが仰ったように、法務業務をある程度知っている人がLegal Operationsチームにいると、他チームとの会話がかみ合いやすいでしょうね。ただ、必須スキルではありません。

齋藤
齋藤

架け橋になる人がいると、多少はコミュニケーションがスムーズというところでしょうか。

宮田
宮田

はい、その程度です。むしろ、会話が成立しない苦しみにお互いが耐えるプロセスが重要な気がします。

門永
門永

Legal Operations推進にあたっての課題については、皆さんお話が尽きないところかと思いますが、残りの時間で最近のホットトピックであるAIの活用、とりわけGenerative AI、についてお話をしていきたいと思います。まず皆さんの中で、ChatGPTをはじめとするGenerative AIを既に業務で使っているという方はいらっしゃいますか。あるいは活用について検討している方はいかがでしょうか。

鈴木
鈴木

検討はしています。

門永
門永

お差し支えない範囲で、どのように検討されているかお聞かせいただけますか。

鈴木
鈴木

法務で使う検討というよりは、会社全体としてどういう使い方をしようかという議論をしています。やはり指摘されているリスクや問題点があるので、どういった使い方であればそれらのリスクに対応できるのかという議論を今はしています。これは個人的な意見になりますが、ChatGPTのように直接的にGenerative AIを使う方法ではなくて、何か別のツールなりテクノロジーに組み込まれたGenerative AIを使う方法の方が現段階では良いのではないかと考えております。つまり、Generative AIそのものには一般に指摘されている問題点があるとしても、別のツールに組み込まれることで、もう一つレイヤーができ、その部分を提供するベンダーがセキュリティ等の企業が必要とする部分を提供してくれれば、十分に実務で活用できるのではないか、ということです。Generative AIを提供している企業は、Googleを除けばほとんどがスタートアップですが、OpenAIとMicrosoftのように、誰もが安心して使えるMicrosoftの製品に組み込まれることで、誰もが安心してGenerative AIを活用できるようになる、というのはあるのではないかと考えております。また、ChatGPTなどを直接使う場合でも、①有料版を使う、②使用履歴の機能はオフにする、といった形でセキュリティの高い方法で使ったり、③この業務に使うときにはこのフォーマットでプロンプトを作成して、ChatGPTにインプットする、といった形で一定の繰返し行われる業務についてプロンプトエンジニアリングのベストプラクティスのようなものが確立していけば、正確性/幻覚の問題も一定程度は解消できるのではないかというイメージはあります。ただ、いずれにせよ、現時点では、当社では完全に禁止されているわけではないものの、IT部門から会社の機密情報や個人情報は入力しないようにといった注意喚起をしているにとどまり、皆業務での活用については模索している段階かと思います。その意味で、組織的に使いこなしているかというとそうではないというのが現状です。

門永
門永

他の皆さんは、いかがでしょう。

齋藤
齋藤

現時点では言えることが少ないですね・・・。

門永
門永

そうですよね。では、少し視点を変えて、Legal Operationsの改善あるいは発展という観点で、このGenerative AIがどういう役割を果たしていくかとか、どういったところで活用可能性が広がりそうか、というあたりではいかがでしょうか。皆さんのアイディアやお考えをお聞かせいただきたいです。

能勢
能勢

どこで使われるかというと、それこそ人間がやっていることのうち、真にクリエイティブなもの以外、つまり過去に誰かがやったことを繰り返すようなものは、全てできてしまう可能性があるのかなと思っています。その前提に立った上で、今はさまざまなリスクが指摘されていて、情報セキュリティリスクや法制度上の問題もありますが、いずれはきっとAIを使わないといけない時代が来ますよね。そのことを考えると、おそらく今やるべきことは、テストするということではないでしょうか。ただしそのときに個人情報の流出等の許容できないリスクは負わないように、リスクを管理可能な程度に限定した上で、成功例と失敗例をたくさん作る。そして来たるAIの時代に備えておくことが大事なのではないかと私は思っています。AIが人間の仕事を代替する時代が来ることはもう避けられないような気はしています。自社が使わないとしても、おそらく他社は使うと思います。

宮田
宮田

Generative AIが調べものや簡単な作文・作業を代替するのは間違いありません。その上で、個人レベルで思うことが二つあります。一つ目は、もはや使い手のGenerative AI使用スキル、こちらが聞きたいことを言語化して質問する力を養う方が手っ取り早いということです。二つ目は、人々のGenerative AI使用スキルが上がり、情報やアウトプットの質が似通ってきたときに、今度は話者の信頼性が問われるのではないかと予想しています。

鈴木
鈴木

もっとも正確性の問題というか、信頼性の問題でいくと、現状では、聞き方によって全然答えが違うという理解をしています。要はその質問を理解して回答しているのではなくて、専門的な話はわかっていませんが、質問に含まれている言葉をヒントに、言葉を作り出しているだけなので、聞き方によって違う答えが返ってくる、意味不明な回答が来るということを繰り返しています。そうだとすると、検索の仕方以上に聞き方は大事で、そのトレーニングをしないといつまでたってもその正確性の問題は解決されないのではないかという気もしています。解決方法の一つはちゃんとトレーニングをして、ちゃんと質問できるようにすること。もう一つは、聞き方も含めてある程度前提を整えてくれたGenerative AIが組み込まれた別の製品を使うこと(別のレイヤーを設けて前提となるプロンプトは予めインプットしておく)にするという二つの選択肢があるのかなという気はしています。どこかで読んだのですが、人に対する指示も一緒で、たとえば弁護士がアシスタントの方に、あるいは秘書の方に何か指示を出すときに、抽象的に言ってもできるはずはなくて、具体的に説明しないとできないのと一緒で、Generative AIを使うとそういう指示も上手になるといったことが書いてありました。まさにそういう話になると思っていまして、何をどういうふうに尋ねるか、何をどういうふうに依頼するのかというのは、ますます重要になってくるのではないかと思います。そしてそういう意味で、みんな部下がいる管理職のように、明確にわかりやすい指示を出せるかどうかが実は新人1年目から大事になってきてしまうのかな、なんて思ったりしています。求められるスキルがちょっと変わってくるところはあるのではないでしょうか。逆にポーンと抽象的に部下に言って、「頑張って考えてやってね」というスタイルだった人はちょっと困ってしまうかもしれないという気もしています。

齋藤
齋藤

Legal Operationsの観点からいうと実はGenerative AIの登場ってチャンスなのかなと思っていて、要はナレッジマネジメントの最たるものですよね。今のChatGPTは世の中の公開情報を基本的にはベースにして学習しているという認識ですが、企業内で使うときには公開情報だけで解決できることはそんなに多くはないですよね。企業の中の固有のナレッジをどれだけそのGenerative AIが学習できるかというところにポイントがあるとすると、実はその企業固有の状況とか、場面においてどう検討したのかっていう情報を記録に残しておくことは、これまで以上に価値が出てくるかもしれません。その意味で言うと、まだ法務の価値提供の役割自体がなくなったわけではないと思っています。また、私が今悩んでいる法務の案件をどうチェックインするかというような悩みから良い意味で解放される可能性もあるので、ナレッジマネジメントのツールとして使えばいいのかなと思っています。あとはもう1点、ChatGPTなどのAIは自然言語で返してくれますが、実はあのような長文の自然言語を果たして全員が本当に正しく理解できるのかということです。我々法務パーソンは比較的そういうのが好きなタイプですけれども、必ずしも自然言語って読解が簡単ではない場合もあるので、強みが活かせるかもしれません。私も自然言語は時代遅れなのかと思っていた頃もあったのですが、実は読解力のような基礎的なスキルがもう一度脚光を浴びるタイミングでもあるのかなと思って、ChatGPTを使って今、試行錯誤しているところです。

門永
門永

ありがとうございます。それでは、最後のトピックに移ります。今、皆さんにもご協力いただきながらこのLegal Operationsの書籍化の作業を進めているところですが、書籍化に向けての意気込みや、皆さんの会社での今後の取組みに関する展望などを順番にお聞かせいただければと思います。

能勢
能勢

米国発祥のLegal Operationsは、必ずしも日本企業でそのまま使えるものではないと思っているのですが、役立つ点はすごく多いので、実際の実践例を伝えるような書籍は、伝統的な日本企業であっても、Legal Operationsの恩恵を享受できるということが広まる良いきっかけになるのではないかと期待しています。そうやって業務効率化していくことで、日本の法務部門の力も上がり、日本企業の国際競争力強化に繋がっていくといいなというような気持ちです。

齋藤
齋藤

今回の連載もそうなんですけど、各トピックは先端的なものもあれば、実は各社同じように悩んでいるトピックも結構あるのかなと思っていまして、おそらくその時々でどのトピックが必要になるかは違うと思うのですが、悩んだときに該当する記事を読んで考え方の示唆が得られるという、立ち返る場所というか検討の後押しになる場所に、この連載がなっているといいなと思います。書籍も同じような位置づけで残っていくものになると理想的だなと思っています。

宮田
宮田

実務者が使える参考文献を目指すのがいいと私は思っていますし、今の編集作業の中でそれに近づいていると思います。それはこの連載に関わっている人たちが実務者であるからであり、実務のど真ん中を取り上げていると思います。全てのパートにおいてもそういう実務的なものが完成したら嬉しいです。

鈴木
鈴木

この座談会は連載の最後に掲載される予定ですので、これが公開されると連載が終わるということで、まずは皆さんのご協力で無事、1年間の連載が終わったことに感謝申し上げたいと思います。その上で、商事法務さんのご協力をいただいて、この連載をベースに加筆をして書籍化することが決まっていますので、引き続きメンバーの皆さんのご協力を得て、書籍化に向けて頑張っていきたいです。Legal Operationsそのものは、まだまだ日本では馴染みがありませんが、最近はちょっとずつ聞く機会のある言葉になってきたように思います。Legal Operationsが日本でも発展していって、法務機能が強化されていけば、日本企業の競争力の強化に繋がっていくのではないでしょうか。各社の現場でそれぞれ行っている取組みをまとめて、みんなが使えるように、まさにナレッジにしていくのは大事なことです。書籍化も含めてLegal Operationsを頑張っていきたいなと思います。皆さん、これからもよろしくお願いします。

門永
門永

皆さん、本日はありがとうございました。

 

告知――この連載が書籍化されます!!

 連載「Legal Operationsの実践」は今回が最終回です。これまでお読みいただいた読者の皆様、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。この連載記事を基に、加筆・修正や新たな論稿、さらには企業のインタビュー記事などを追加して、書籍「Legal Operationsの実践」を発刊させていただく予定です。書籍につきましても、よろしくお願い申し上げます。

編著者代表 鈴木・門永

 

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