Legal Operationsの実践(7)
――Knowledge Management――
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業
弁護士 門 永 真 紀
本連載第7回目となる本稿では、Corporate Legal Operations Consortium(CLOC)のCore 12(詳細は第2回)のうちKnowledge Managementについて、その意義を述べるとともに、Knowledge Managementの取組みの方向性について考察したい。
なお、本稿は筆者の所属する組織の見解を述べるものではなく、筆者個人の見解である。
1 Knowledge Managementとは何か
Knowledge Managementは、法務に限らずさまざまな分野において議論されているが、CLOCでは、「既存の知識を活用し、作業の繰り返しを最小限に抑え、組織全体の知識や能力を利用しやすくすることで、時間を節約し、リスクを減らし、成果を向上させるために、組織が集合知を構造化して増やす一連のプロセスや行動」と定義されている。上述の定義にも含まれるとおり、Knowledge Managementは業務効率化、リスクの低減、業務の質の向上を実現すると共に、人材育成や、職場環境に対する満足度向上の観点からも重要な役割を果たしており、ひいては組織全体の競争力向上に資するものである。
2 Knowledge Managementに関する現状と課題
Knowledge Managementは、多くの企業、法律事務所、その他の組織が長年取り組んできている重要な課題の一つであるにも関わらず、ほとんどの組織においては、いまだ試行錯誤しているのが現状である。CLOCが2021年に実施した調査[1]においても、knowledge managementに関してはまだ発展途上で改善の余地が大きい(成熟度に関する5段階評価の1と2)と答えた企業が67%を占め、Legal Operationsに関する他の課題に比べて成熟度が低いと感じている企業が多いことが示されている。
では、なぜKnowledge Managementを実現することは難しいのか。
Knowledge Management実現のための要素として、しばしば人(people)、プロセス(process)・テクノロジー(technology)の3点が紹介されるが、近年リーガルテックの発展により、テクノロジーの要素は飛躍的に進歩した。また、プロセスについても、リーガルテック導入にあたり、業務フロー自体を見直すといった動きが増えたことにより、従前に比べればかなり整理されたものと思われる。
これに対して、依然として多くの組織が抱えている課題は、「人(people)」の要素に関する点である。
Knowledge Managementは、いくら効率的なプロセスを確立し、優れたテクノロジーを導入しても、それが組織内のメンバーのニーズに合致したものであり、かつ、組織内のメンバー一人ひとりが継続的にKnowledge Managementを実践していかなければ、実現することはできない。他方で、Knowledge Managementは、手間と時間がかかるわりに成果が見えづらい地味な作業の積み重ねなので、個々のメンバーの協力を得にくいという難しさがある。その結果、これらの点がなおざりにされ、Knowledge Managementがうまくいかない状況に陥ってしまうのである。
そこで、以下では、筆者自身の経験もふまえて、Knowledge Managementの組織的な取組みを始める際の視点について、いくつか提案したい。
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(かどなが・まき)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業弁護士。2005年慶應義塾大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2020年1月Chief Knowledge Officer就任、2022年1月パートナー就任。
外資系メーカー、大手総合商社など複数の出向経験を有し、2017年よりナレッジ・マネジメントを専門として、主に所内のナレッジ・マネジメント業務に従事する他、所外向けにもナレッジ・マネジメントに関するセミナーを多数行っている。
著作に「ナレッジ・マネジメントとその仕組みづくり」ビジネス法務2022年6月号、「連載 法務人材活用のためのナレッジ・マネジメント」(Business & Law 2022年02-04号)、「CLOC Japan Shared Interest Groupの組成――日本のリーガル・オペレーションズの発展を目指して」NBL1200号(2021)、『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務、2020)などがある。