SH4472 Legal Operationsの実践(21)――Knowledge Management Advance 門永真紀(2023/06/05)

法務組織運営、法務業界

Legal Operationsの実践(21)
――Knowledge Management Advance――

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業

弁護士 門 永 真 紀

 


  • Legal Operationsの実践(23)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(上)
  • Legal Operationsの実践(24)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(下)
 

 本連載第7回目では、Corporate Legal Operations Consortium(CLOC)のCore 12(詳細は第2回)のうちの一つのCoreであるKnowledge Managementについて、その意義と取組みの方向性について論じた。本連載第21回目となる本稿では、実際にKnowledge Managementを進めるうえで、多くの組織が直面する課題である、インセンティブの問題について考察してみたい。

 なお、本稿は筆者の所属する組織の見解を述べるものではなく、筆者個人の見解である。

 

 Knowledge Managementの仕組みは一度作れば完成というものではなく、仕組みを維持・発展させてこそ意義がある。そして、Knowledge Managementを維持・発展させていくには、本連載第7回でも述べたとおり、各法務担当者がKnowledge Managementを実践していくことが不可欠である。なぜなら、新しいナレッジの多くは、個人から生成されるものであり、それぞれの個人的な知識がKnowledge Managementを通じて、企業全体にとって価値ある組織的な集合知に転換されるからである。

 しかしながら、個々の法務担当者によるKnowledge Managementへの協力を得ることは容易ではない。

 非常にシンプルであるが、個々の法務担当者によるKnowledge Managementの実践がなかなか進まない最大の理由は「手間がかかる」という点だ。日々の業務に追われるなか、案件以外の作業に時間を取られることを億劫に感じるのは当然といえば当然である。

 また、Knowledge Managementに対する貢献は、目に見える成果が表れにくく、「投資へのリターン」[1]を実感しにくい。

 そこで、案件と異なり、つい後回しにされがちなKnowledge Managementに積極的に時間を割いてもらうには、いかにしてナレッジ提供に対するインセンティブを与えるかがポイントとなる。

 

1 Knowledge Managementへの貢献を評価項目に加える

 外資系のコンサルティング・ファームや海外の法律事務所などでは、Knowledge Managementへの貢献度を昇格の条件の一つにしているところも多くある。

 あるプロフェッショナル・ファームでは、パートナーに昇進するための条件の一つとして、自身が関与したプロジェクトについて、いかに有用なナレッジを整理して共有できたかが問われるそうであるが、この条件を評価の仕組みに織り込むようになって以降、Knowledge Managementへの積極的な貢献が促進されたという。なお、同ファームでの評価の方法は、ナレッジ共有の「数」を評価するのではなく、個々のプロジェクトに関して共有されたナレッジの引用(利用)数やそのナレッジを利用した人のフィードバックを数値化することにより「有用なナレッジ」をランキングするという方法を採っており、Knowledge Managementに貢献するための時間を確保しているか否かという点も考慮されている。

 個々の貢献の内容は多岐にわたるので、一つ一つの貢献内容を数値化することは困難であるが、特に加点評価を行う場面において、個人の業績評価に関する指標の一つとすることは効果的であろう。

 

2 Story tellingを積極的に行う

 Story tellingは、共感を生みやすい、伝えたいメッセージが明確になる、複雑な情報を伝えるときに記憶に残りやすいといった点で、有効な情報伝達の方法として近時注目されているアプローチである。

 2022年5月に開催されたCLOCのGlobal Instituteにおいても話題になったこのアプローチは、Knowledge Managementへの貢献に対するインセンティブを高める効果も十分に期待できる。

 Knowledge Managementのさまざまな施策やツールは、事実として組織内で紹介されるだけでは、なかなか浸透せず、利用周知が進まないために、結果的に継続できず尻すぼみになってしまう場合も意外と多い。従前どおりの方法でもある程度対応できていた人にとっては、Knowledge Managementの施策実行のために手間をかけたり、新しいツールを使いこなせるように時間をかけて練習することは、時間の無駄(とまでは言わないが、忙しい業務時間を削ってまで協力するインセンティブがない)と感じてしまうからだ。

 とりわけこのような場面において、ツールの導入に関与した人や、施策実行をリードしてきた人がStory tellingを行うことは非常に効果的である。具体的には、なぜこのような取組みを始めたか、その中でどういうポイントにこだわって工夫したのか、この取組みを通じてどのような成果があったと感じるかを、経験談(Story)を交えて語ることが望ましいと考える。これにより、話を聞いたメンバーにとっては、単なる「面倒な作業/見慣れないツール」が「信頼する同僚に紹介された取組み」と身近に感じられ、また、具体的に理解できるようになり、自分でも使ってみようか、さらにはナレッジ提供に協力してみようかという気持ちを引き出すことにもつながる。

 また、Knowledge Managementをリードした人でなくても、ツールの利用者が、実際にこの施策/ツールを通じてどのようなナレッジが得られたか、自分の業務の進め方や時間の使い方がどう変わったかを語るのも良い。Knowledge Managementは、それを実践する人が増えていくことで発展するものであるから、Story tellingを通じたメッセージを受け取ることで、取組みに賛同し、協力するメンバーを増やすことは非常に重要である。

 なお、Story tellingを行う場を公式に設定する必要はなく、定例のチームミーティングの冒頭で5分ほど時間を取って新たな取組みについて口頭で語ってもらう、最近導入されたツールについてチームコミュニケーションツールを使ってコメントしてもらうといった形が良い。誰もがカジュアルに発言できる場でStory tellingを行うことにより、Story tellingそのものに対する抵抗感をなくし、自然にKnowledge Managementに関するディスカッションを促すような土壌を作ることが目的だからである。

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(かどなが・まき)

アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業弁護士。2005年慶應義塾大学法学部卒業。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録(第二東京弁護士会)。2020年1月Chief Knowledge Officer就任、2022年1月パートナー就任。
外資系メーカー、大手総合商社など複数の出向経験を有し、2017年よりナレッジ・マネジメントを専門として、主に所内のナレッジ・マネジメント業務に従事するほか、所外向けにもナレッジ・マネジメントに関するセミナーを多数行っている。
著作に「ナレッジ・マネジメントとその仕組みづくり」ビジネス法務2022年6月号、「連載 法務人材活用のためのナレッジ・マネジメント」(Business & Law 2022年02-04号)、「CLOC Japan Shared Interest Groupの組成――日本のリーガル・オペレーションズの発展を目指して」NBL1200号(2021)、『企業法務におけるナレッジ・マネジメント』(商事法務、2020)などがある。

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