SH4175 Legal Operationsの実践 特別号――法務機能強化とリーガルオペレーションズ 室伏康志/前田絵理(2022/10/27)

法務組織運営、法務業界

Legal Operationsの実践 特別号
――法務機能強化とリーガルオペレーションズ――

EY弁護士法人

弁護士 室 伏 康 志

弁護士 前 田 絵 理

 

  • Legal Operationsの実践(23)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(上)
  • Legal Operationsの実践(24)――最終回――連載の終わりにあたって(座談会)(下)

 

1 法務部門の「パーパス」――最適なリーガル・リスク・マネジメント(LRM)

⑴ 法務部門の変革への期待

 経済産業省の「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」が2018年と2019年の二回にわたって報告書[1]を発表したことは、我々も含め企業の法務部門に関与する人たちにとっては大きな励みになったことは間違いないであろう。同報告書は法務部門の「パートナー機能」と「ガーディアン機能」の重要性を説くと同時に、「経営者が法務機能を使いこなすための7つの行動指針」を提示し、経営者にも企業における法務機能の改革を促していることがとりわけ重要である。「失われた30年」といわれる中で国際競争力の低下に悩む日本企業の課題の一つとして経済産業省が日本企業の法務機能に注目し、その「在り方」に関して有識者を交えて議論し対応策を提示したことは、高く評価されるべきである。実際この報告書を受けて幾つかの企業で具体的な動きがあったことは承知しているものの、発表から3年が経過する今、当初期待していたレベルの動きになっているかについては疑問が残る。

 2020年5月に従来のISO 31000を補完する形で発表されたISO 31022:2022「リーガルリスクマネジメントのためのガイドライン」[2]も企業の法務リスク管理のあるべき姿がフレームワーク化されたという点で注目すべき動きであった。

 このように日本企業の法務部門が変革していくことへの期待が高まっている一方、我々が所属するEY弁護士法人がメンバー・ファームの一つであるEY Lawが昨年米国ハーバード大学法科大学院と共同で 日本含む22ヵ国点17業種の 2,000名の最高法務責任者を含むさまざまな分野のリーダーに調査を行った結果[3]によれば、世界的な潮流として企業の法務部が「より少ない予算で、より多くをこなすこと」を期待されていることが明らかになっている。 先進的な法務部門はALSPs(Alternative Legal Service Providers[4])の活用を含む新たな業務の提供方法を取り入れており、「リスク管理、コスト削減、ビジネス推進」というビジネス側からのニーズに透明性の高い形で答えるという部門戦略と一体のものとして法務部門の変革を推進しており、その中でもリーガルオペレーションズの役割は大きなものがある。

⑵ 法務部門の「パーパス」

 我々は、法務部門の「パーパス」(存在意義)は、「最適なリーガル・リスク・マネジメントによる企業価値の毀損防止と向上」であると考えるが、もちろんさまざまな見解があるだろう。狭義の「法務」に捕らわれることなく「企業価値」を基準により広い視野で法務部門の役割を考える必要がある。COSOは2017年に組織のパフォーマンスとEnterprise Risk Management(ERM; 全社的リスク・マネジメント)の連携を強化することを目的とした改訂が行われた[5]。最近は多くの企業でERMを目的とした組織横断的なリスク・マネジメントの仕組みが導入されている。しかしながらその中で法務部門の果たしている役割は必ずしも積極的・能動的なものとは言えない。企業に関するあらゆるリスクがその程度の高低はあるにせよ法務部門の関与を必要とするという点においてリーガル・リスク・マネジメントはERMの「コア」であると言っても過言ではない。

 企業法務のパーパスを考える上で、法務部員の”リーガル・マインド” は極めて重要である。すなわち、 法務部員は、形式的な法令文言の解釈・遵守にとどまらず、立法事実・立法趣旨を踏まえた「適切か否か」の判断ができるプロフェッショナルである必要がある。「法律的には問題はない」で止まっているアドバイスは社内のクライアントから評価されないのは当然である。法務部門は会社が抱えうる広範なリスクに考えを及ぼさなければならないし、とりわけ、レピュテーション・リスクの判断にあたっては、専門性と「普通」の感覚のバランスが重要になる。

 また、法務部門は、適用となる現行の法規制の把握をするだけでは十分とはいえない。ソフトローを含む適用されうるルールの改正動向を踏まえた”Horizon Scanning(将来予測)”が必要となる。

⑶ 法務業務の可視化――社内プレゼンスの向上、KPI設計と公正な人事評価

 法務部門に対する社内のステークホルダーからのコメントにもきちんと耳を傾ける必要がある。法務部門が「受け身」の姿勢であるといった批判は、しばしば耳にする。限られた人員で業務を行っていることが大きな理由の一つとはいえ、法務部員の知見が「属人的」であり「組織知」としてのアドバイスを提供していないというコメントに対しては対処の余地が大きいだろう。経営陣他社内のステークホルダーにより積極的に働きかけ法務部門のプレゼンスを上げるには、法務部門の業務を「可視化」することが重要である。そのためには、まず組織の適切なKPI(Key Performance Indicator; 重要業績評価指標)を設計する必要があるが、法務部門に限らず間接部門のKPI設計は決して容易ではない。

 また、「グローバルに通用し、経営がわかる法務人材がいない」というコメントもある。組織だけではなく法務部員のKPIを設計することで、適切に案件をアサインする案件管理から採用、人材育成や人事評価を公正にすることにもつながり、これを達成するためには法務DXツールの導入も検討されるべきである。

この記事はフリー会員の方もご覧になれます


(むろふし・やすし)

EY弁護士法人 シニアカウンセル 弁護士
2020年11月にEY弁護士法人に主として法務機能コンサルティング及びリーガル・マネージド・サービスを担当するシニア カウンセルとして参加。1985年登録以来弁護士として37年以上の経験を有し、国際金融取引や金融規制、金融機関のコンプライアンスに関する法務を中心に扱ってきた。複数の大手国際法律事務所でパートナーを務めた後、2000年~2017年まで18年間、クレディ・スイスの日本のジェネラルカウンセルとして、投資銀行業務、プライベート・バンキング業務及びアセット・マネジメント業務に関する法務及びコンプライアンスの日本における統括責任者を務めた。2012年から6年間日本組織内弁護士協会(JILA)の理事長を務めた。

 

(まえだ・えり)

EY弁護士法人 ディレクター 日本国・米国NY州弁護士・経営学修士(MBA)
2022年1月にEY弁護士法人に加入し、法務機能コンサルティング及びリーガル・マネージド・サービスに従事。EY弁護士法人への加入前は、2007年より西村あさひ法律事務所に勤務後、2011年より旭化成株式会社にて企業内弁護士として勤務。 同社にて法務部門のほか、経営企画部門、買収先米国企業の法務部門、インド子会社の役員を経験。その後ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の法務部門を経て、2021年7月から12月までEYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社にてLead Legal Counsel。併せて11年以上の民間企業勤務経験を有する。2014年~16年、2018年~現在日本組織内弁護士協会(JILA)理事。

 

タイトルとURLをコピーしました